アスペルギルス Aspergillus Fumigatus


 じめじめした梅雨も明け、カビの季節も終了、と思うのは実は間違いです。確かに湿気を好むカピは多いものの、アレルギーの原因となるカビの1つであるアスペルギルス、特にA.fumigatusは、風呂場や水回りよりも、比較的乾燥に強い(好乾性真菌の1つ)ため、換気が悪い室内のハウスダスト、押入れ、靴箱などからも検出されやすく、決して油断できません。
 成人の気管支喘息の患者を対象とした報告1)では、約17%がアスペルギルス特異的lgE抗体を保有し、表のように年齢が上がるにつれて保有率の順位が上昇します。
小児を対象とした報告2)では、6〜15歳の喘息のみを持つ子供でアスペルギルス陽性率が約10%、喘息とアトピー性皮膚炎(AD)を合併した場合には約45%と高い陽性率を示します。
ただしAD患者における高頻度のアスペルギルス感作率は、必ずしもアスペルギルス感作を意味しているわけでなく、ADでの陽性率が高いマラセチアとの共通抗原性を反映している可能性があります。
 喘息患者の場合、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の有病率は1〜2%3)、国際的にも2〜3%で一致しています。すなわち喘息患者50人に1人以上がABPAであり,見逃さないための注意が必要です。
アスペルギルス特異的IgE抗体が陽性であれば、まずABPAを疑った検査が必要です。国立病院機構相模原病院のデータではA.fumigatusに対するIgE陽性患者の約半数がlgG抗体(沈降抗体)陽性のABPA予備群です。ABPAは気管支肺組織への破壊をきたすため、喘息も難治化しやすく、重症喘息患者では常にその合併を念頭におくべきです。無症候性に増悪・進行を認めることもしばしばであり、早期診断に加え、早期の環境対策も重要です4)5)
 A.fumigatusはカビの中で最も危険なABPAをきたすアレルゲンであり、一般喘息の難治化アレルゲンでもあります。

喘息やアレルギー性疾患をお持ちの患者さんでまだ検査をされていない場合は、アスペルギルスも検査項目の1つに加えることを強くお勧めします。



アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
ABPAとは、アスペルギルスに感作された(=IgE抗体陽性)喘息患者において、アスペルギルスが下気道に腐生(colonizatjon)し続けることにより、次第にIgG抗体も産生され、喘息(1型アレルギー)だけでなくV型アレルギー反応(粘液栓による無気肺、好酸球性肺炎、その後に中枢性気管支拡張や肺嚢胞形成と線維化)をきたす疾患で、強い好酸球性炎症や、V型反応に起因する早期の中枢性気管支拡張などの気管支肺の構造破壊をもたらします。この点が通常の喘息と異なります5)
アスペルギルス以外の真菌もまれに原因となるため、それらを総称してABPM(アレルギー性気管支肺真菌症)と呼びます。

※Thermo allazin  国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長 谷口正実先生 パンフより

  1)足立満他:アレルギー・免疫13(4):548-554、2006
  2)西間三馨他:日小ア誌20(1):109-118、2006
  3)福冨友馬他:アレルギー59(1):37-46、2010
  4)吸入性アレルゲンの同定と対策(監修谷口正実、福冨友馬)メディカルレビュー社 東京、2014
  5)喘息予防・管理ガイドライン2012(監修日本アレルギー学会喘息ガイドライン 専門部会)協和企画東京、2012


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