アレルギーマーチとは
アレルギーマーチとは同愛記念病院小児科医長の馬場 実先生が提唱した言葉ですが、それによると
「アトピー素因のある人に、アレルギー性疾患が次から次へと発症してくるようすをアレレギー・マーチ(アレルギーの行進)というものです。典型的には、乳児期に牛乳、卵などの摂取により皮膚症状(湿疹やアトビー性皮膚炎)や消化器症状(下痢、腹痛、便秘など)がおこり、生後6カ月頃になると喘鳴、1〜2歳になると呼吸困難も加わって気管支喘息発作をおこすようになります。
このころから食物抗原にかわってハウスダストなど吸入性抗原に感作されることが増えてきます。
気管支喘息は一部は7〜8歳で治りますが、大部分は学齢期まで持ち越し、約70%が14〜15歳までに治ります。残りは成人型気管支喘息に移行しますが、この間アレルギー性鼻炎が発症したり、じんま疹を経験することもあります。
このように次から次へとアレルギーが形を変えて、進行してゆく傾向があります。(下図)」
基礎にはアレルギー素因があり、おかあさんのおなかの中で卵や牛乳のタンパク質によって、アレルギー反応を既に起こしていて、それが生まれてから乳児湿疹などの症状として現れてくるのです。
アレルギーの素因があれば早いうちからアレルギーの予防をしていく上で重要な考え方であると思います。
小児の気管支喘息の80%前後はアレルギー性です。すなわち、アレルギー体質(アトピー素因ともいいます)をもつ人に起きます。この体質は親から子へと遺伝します。ところで、アレルギー性の病気 気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎など が発症するためには、原因となる抗原が体の中に入ることが必要です。大部分の人は食べても吸入しても、触っても何の症状も起こさないのに、アレルギー体質の人は家の中のほこり(ダニ)を吸って喘息の発作を起こしたり、卵を食べて蕁麻疹になったりするのです。 1.卵の除去によりアレルギー性疾患は予防できるか アレルギー体質の人は生まれてまもなくからさまざまな原因でいろいろな症状(病気)を起こします。生後数ヶ月で離乳食として卵を与えると下痢をしたり、発疹(皮膚炎)を起こしたり、6ヶ月をすぎるとゼーゼーして、やがて喘息発作を起こすようになります。喘息は学童期を通してつづき、思春期になるまでに60〜70%は治りますが、10歳をすぎる頃になるとアレルギー性鼻炎になることがあります。このように、アレルギー性の病気が次から次にと現れることをアレルギー・マーチ(行進)といいます。 一方、アレルギー体質をもっている兄弟でも、皆がアレルギー性の病気になるとは限りません。そこで、アレルギー性の病気の発症を何とか予防することはできないかと考えました。 赤ちゃんが初めて口にする食物はミルクや卵ですが、とくに卵の成分である卵白はアレルギーを起こす性質が非常につよいのです。 そこで、私はお母さんが妊娠8ヶ月になったら卵と卵を含む食物を完全に食べないようにしてもらいました。赤ちゃんが生まれて、母乳栄養のときは生後8ヶ月になるまで卵を食べないように、また、赤ちゃんも離乳食としての卵を生後8ヶ月まで完全に禁止し、5歳になるまでに喘息やアトピー性皮膚炎になる頻度を、卵を自由に与えた兄または姉の場合と比較してみました。 その結果は、卵を完全に止めることにより2つのアレルギー性の病気になる頻度は3分の1ないし2分の1に減少することがわかりました。 この理由は少しむつかしいのですが、要するに妊娠末期から乳児初期に与えられる卵のような抗原性のつよい食物がアレルギー・マーチが始まるきっかけをつくるのではないかということなのです。 ですから、アレルギー体質をもっているお母さんは妊娠末期から赤ちゃんが8ヶ月になるまでは卵や卵を含む食物を完全に止めていただきたいと思います。ぜひ試みてください。
◎抗アレルギー薬によるアレルギー性疾患の発症予防
また、もし、赤ちゃんがすでにアトピー性皮膚炎をもっている場合、その後喘息になる可能性はかなり高いのです。ところで、アトピー性皮膚炎の治療には抗アレルギー薬(ザジテン)がしばしば用いられますが、この薬をしばらくのみつづけることにより、その後喘息になることをある程度抑えることができるということがわかっています。喘息になるのは2〜3歳が多いのですからこの頃まで予防薬である抗アレルギー薬を服用させることはよい方法と思われます。専門医に相談されることをおすすめします。 アレルギー体質をもっているから、何れはアレルギー性の病気になるのだとあきらめてしまわないで発症を予防する努力をしていただきたいと思います。
(文献26)