気管支喘息とは
気管支喘息(喘息)は発作性に始まる咳、息を吐くときの喘鳴、呼吸困難を繰り返して起こす病気です。気管支のまわりにある平滑筋がけいれんを起こし、収縮します。また、気管支の粘膜は水を含むように腫れ、さらにその粘膜からの分泌物が増加し、気管支の中の空気の通る道は狭い状態になっています。このように、狭くなった気管支を空気が通るためにゼーゼーヒューヒューという音が聞こえるわけです。
このような喘息の発作は、繰り返して起こすことが特徴です。小児の場合、発作が始まると、1回の発作は1日から4日ほど続きます。このような発作を起こしやすいシーズンになると、毎週のように繰り返します。中等症以上の喘息に限ってみると、年間で平均20回前後の発作を起こすことがわかっています。
◎発作は夜起きやすい
喘息は、日が暮れて暗くなってから、朝、日が昇るまでの間、すなわち夜間起きるのが大部分です。ある調査によると、93%ぐらいの発作がこの間に起こっています。これに対し、昼間発作が起きることはそれ程多くありません。
発作が夜に起こりやすい理由
@自律神経の問題
夜になると、自律神経のうちの副交感神経が緊張します。副交感神経の緊張しやすい状態というのは、気管支が収縮しやすく、発作の起きやすい状態になるわけです。
A抗原の問題
小児の喘息の大部分はアレルギー性であり、具体的な原因としては家のほこりの中のダニが関係しています。このダニは身の回り、たとえば枕の中、あるいはじゅうたん、ふとんなどに含まれていますし、また日中は上の方に舞い上がっているわけですが、夜寝て静かになると枕やじゅうたんのダニを吸入することになります。布団の上で走り回ってダニを飛ばすこともあります。枕を投げることもあります。そうして浮遊しているダニが落下してきて、それを吸い込むということにもなります。またベッドが原因の場合には、夜になって猫や犬が側に寄ってきてそれが原因で発作が起こるということもあるかと思います。
B明け方の冷え込み
気管支は気温が急激に低下すると収縮しやすく、ひいては発作を起こしやすくなります。夜寝た時間に比べて明け方は平均的にいって5度〜6度温度が下がるといわれています。特に朝4時から5時にかけて急激に気温が低下し、それが原因で発作が起こるということになります。気管支もこの時間帯が一番細くなるという報告があります。
C気管支の中の分泌物
大人は1日に200ccぐらいの分泌物を気管支から出しますが、昼間はそれを飲んだり吐き出したりします。しかし、夜間は寝ているためにこれが気管支の中にたまり、ある程度以上になると気管支を刺激して咳を起こし、発作になるといわれています。
D副交感神経優位となりステロイドの分泌が減ることが関与していると考えられています。
◎発作の多い時期がある
気管支喘息の発作を1年を通して、見ると、発作の多い季節があります。一番多いのは9月の終わりから10月の終わりにかけての、いわゆる秋です。もう1つは、春、アレルギー性鼻炎などが出てくる時期から梅雨どきにかけてののシーズンです。いわゆる季節の変わり目ですね。
なぜこれらの季節に発作が多いのか必ずしもはっきりわかっていません。ただ言えることは、気象の関係です。台風がやってくる前など、強い風が吹いてきて気温の変化が激しい、特に気温が急激に低下するようなときに発作が起こりやすいということがわかっています。さらに梅雨時、あるいは秋の台風シーズンというのは、温度の変化が激しいために体調を崩し、風邪をひきやすいということも多いと思いますが、この風邪をひくということも発作の原因になるようです 。 さらにアレルギーの面からみると、たとえばダニは従来、夏から秋にかけて数がふえることがわかっており、そのためダニが原因の喘息は、この季節に多いといわれています。また、わが国では割合少ないのですが、秋に多い草の花粉、たとえばブタクサで喘息が起きる人は、ブタクサの花粉が舞うシーズンに発作が多いのです。ちょうどこのシーズンが9月から10月にかけてということになるわけです。
咳喘息(cough valiant asthma, cough dominant asthma)について
ゼイゼイ、ヒューヒューなどの喘鳴がなく、咳が主体の喘息です。少しゼイゼイしたり呼吸機能が少し低下することもあります。治療として吸入ステロイドを使用します。気管支拡張剤は効果があります。最初は吸入ステロイドとβ刺激剤を使用し、落ち着いたら吸入ステロイドだけにしたらいいでしょう。
発作のとき体の中では
喘息の病態
喘息は発作性に起こる呼吸困難が主な病状ですが、そのとき体の中に起きている状態は、気管支が収縮し、酸素を含んだ空気を肺の中に運ぶことができないことと、肺に貯まった炭酸ガスをきちんと外に出せないという状態で、それがいちばん主な病態です。すなわち、発作が起こると息が苦しい。だから一生懸命呼吸をして酸素を肺に運び、出そうとする。しかし、空気の通る気道が狭いために、十分ま空気を肺の中に送り込めず、出すこともままなりません。その結果、肺の中には炭酸ガスを含んだ空気がたくさんたまって、いわゆる肺気腫という状態になります。
肺機能の低下
肺機能検査といって、呼吸の働きを調べる方法がありますが、この方法で調べると、呼吸機能の異常がはっきり認められます。つまり、普通の場合に比べて吸い込む空気の量は著しく減っています。全体の呼出量(吐き出す量)に対して、1秒間に吐き出すことのできる量を1秒率といいますが、喘息の場合は1秒率が低下しています。また、努力性呼出曲線やフローボリューム曲線も閉塞性の呼吸障害の状態を示していますし、これらは発作が重いか軽いかによって、明らかな差が見られます。
気道の過敏性の亢進
気管支は外からの刺激に対して反応します。これを気道の過敏性と言いますが、喘息の場合には気道の過敏性が正常の人に比べて非常に亢進しています。たとえばアセチルコリンを吸入させる場合、正常の人の10分の1、あるいは100分の1の量で収縮します。また冷たい空気を吸ったり、あるいは階段をかけ上がるときなどに咳を起こしますが、これはすなわち気道の過敏性が亢進している状態にあるからです。 アセチルコリンを吸入させて、気道の過敏性を調べる検査がありますが、重症例では軽症例に比べて吸入閾値がずっと低い、すなわち薄い濃度のアセチルコリンで収縮を起こします。発作を起こしやすい状態になっているのです。しかも徐々に喘息が治ってくると閾値が上がっていくことがわかっています。
気道の過敏性の亢進
呼気ガスNO(一酸化窒素)
喘息患者では気道粘膜に浸潤した炎症細胞や活性化気道上皮細胞がNOを産生し、呼気ガスNO濃度が上昇します。症状が安定しているようでもNOが高値である場合は抗炎症治療を行うことが重要です。 →気管支喘息の治療