ナッツアレルギー
これらに加えて、最新の平成30年度調査ではナッツ類アレルギーが著しく増加したことが判明しています。
ナッツ類の中ではクルミ、カシューナッツ、アーモンドの報告が増え、中でもクルミは食品表示法の義務項目であるピーナッツよりも多くの症例が報告されています。
これは健康志向の高まりや、国内消費量の増加が背景として考えられます。ナッツ類は、菓子類やドレッシングなど様々加工食品に使用されており、ナッツそのものを食べるだけではなく、知らず知らずのうちに摂取してしまうことが多い食品です。
また、微量でも重篤症状を引き起こしやすい食品であるため、ナッツ類にアレルギーを持つ患者さんでは、誤食による症状誘発にも注意が必要です。
ナッツおよびピーナッツのアレルギーは症状が比較的重篤で、耐性を獲得しにくく、近年その発症率が上昇しています。耐性が獲得しにくいということは なかなか大きくなっても食べることができるようにならないということです。
「過去に血液検査で陽性となったため除去している」と言う患者さんも少なくありません。
ナッツ類とピーナッツ類(マメ科)は分類上異なりますが、ピーナッツアレルギー患者の1/3がナッツアレルギーを示すと報告されており、両者の共通抗原の存在が知られています。
厚生省アレルギー物質を含む食品に関わる表示義務より以下のものが示されています。
クルミ、アーモンド、ハシバミ、カカオ、ココナッツ、ピーナッツ、ブラジルナッツ、カシューナッツなどが適応になります。
植物学的にはピーナッツはマメ科であり、クルミ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツはそれぞれ別の科に分類されます。
アーモンドはバラ科の種実でリンゴや杏の仲間に入りますが、果肉ではなく、種を食べるという点でナッツ類に分類されます。
カシューナッツでは他のアレルギー疾患を併発せず、単独でアレルギーを認めるケースも多い特徴があります。個別に診断する必要があります。
科 | 種 |
ウルシ科 | カシューナッツ、ピスタチオ |
クルミ科 | クルミ、ペカンナッツ |
バラ科 | アーモンド |
カバノキ科 | ハシバミ(ヘーゼルナッツ) |
サガリバナ科 | ブラジルナッツ |
ヤオギリ科 | カカオ |
ヤシ科 | ココナッツ |
マメ科 | ピーナッツ |
食物アレルギーの確定診断には経口負荷試験(OFC:oral food challnge )が有用ですが、ナッツおよびピーナッツは誘発症状が重篤で負荷試験を実施することが困難であることから、接種後の誘発症状を予測できる検査法としてCRD(component Resolved Diagnotics)が注目されています。 CRDとはアレルゲンをアレルゲンコンポーネント(構成蛋白)単位に分解し、これに対する特異的IgEを測定することで診断をおこなう方法です。
菓子などによく使用されるヘーゼルナッツの種々のアレルゲンコンポーネントに対する特異的IgEを測定した結果、ヘーゼルナッツアレルギー患者と耐性獲得患者では特異的IgEが陽性を示すコンポーネントのプロファイルに大きな違いが認められたことが報告されています。
治療
最近では食物アレルギーに対して経口免疫療法が試みられるようになってきました。ヘーゼルナッツアレルギー患者を対象に、ヘーゼルナッツアレルゲン抽出液を舌下に留め、はき出す舌下免疫対症療法を8-12週間実施した結果、良好な成績が得られたと報告されています。
将来的には食物アレルギーの診断および治療における選択肢になる可能性があるようです。
花粉症との関係
クルミ、ヘーゼルナッツなどのナッツは果物、野菜と共にカバノキ科(ハンノキ、シラカンバ等)花粉症に合併する口腔アレルギー症候群(OAS)の原因食物としても知られています。これは花粉、果物、野菜とナッツ類に存在する共通抗原が原因と考えられています。
ナッツを含む食品の1例
主食 パン、和え物、カレー
菓子 チョコレート、杏仁豆腐、アイスクリーム、ケーキ、クッキー、リキュール
その他 シリアル、食用油、担々麺
ピーナッツアレルギー
ピーナッツ(落花生)は日本語で地豆(じまめ、ジーマーミ)、英語でgroundnutと呼ばれます。地下で実をつけるため厳密的にはナッツと異なり、植物的には大豆やエンドウ豆と同じマメ科に分類されます。
学童で約6%あり、幼児期から次第にその頻度が増えてきます。
特徴として
◎重篤な症状を起こしやすい
アナフィラキシーショックを含む多臓器にわたる重篤な症状が多いことが特徴です。ピーナッツの症状誘発閾値は蛋白量として100μg〜1gと幅がありますが、極微量でも症状を認める例も報告され、触ったり吸入するだけでも症状を誘発することもありますので注意が必要です。
◎耐性を獲得しにくい
小児の乳製品、卵、小麦、大豆アレルギーでは、成長とともに摂取可能となることが多いのですが、ピーナッツやナッツなどは経年的な耐性が得られにくいという特徴があります。そのため学童期以降の発症例では生涯にわたって食べることができないことになります。
◎誤食を防ぐ指導が重要
ピーナッツは加工食品など幅広く利用されています。微量でも症状を誘発することがあるため、ピーナッツアレルギーか否かを正しく知り、食品表示義務の読み取り方、誤食を防ぐための方法などの指導が重要です。
検査
ピーナッツ特異的IgE抗体値がイムノキャップ 3.5UA/ml(クラス3)以上の高い児では気をつける必要があります。経口負荷試験(OFC)を行うと症状が出ない児もいますし、逆にアナフィラキシーなど重篤なアレルギー症状が出ることもあり、全く油断できません。
これにイムノキャップアレルゲンコンポーネント特異的IgE Ara h2の値を組み合わせてOFCを行うことで重篤なリスクを減らすことができます。
ピーナッツの主要アレルゲンは貯蔵タンパク質のAra h 1(7sグロブリン)、Ara h2(2sグロブリン)、Ara h3(11sグロブリン)他のピーナッツコンポーネントと比較して、Arah2特異的IgE抗体価の診断効率が高いとされています。1) 海老澤らはArah 2特異的lgE抗体価について4.71 UA/mL をカットオフ値とした場合、陽性的中率が95%以上となることを報告しています。また、本邦小児においてAra h 2 と同時にAra h 1 とAra h 3が陽性であれば、陽性的中率が100%とな芯との報告もあります1)。
2014年8月より保険診療でのArah2特異的lgE抗体価測定が可能となりました。
しかし、Ara h 2が陰性であってもピーナッツアレルギーは否定できません。Ara h 6 は、Ara h 2と同じ2Sアルブミンですが,Ara h 2特異的lgEが陰性であっても、Ara h 6陽性である場合は重篤な症状が誘発される可能性があります2)。
また,汎アレルゲンのBet v l ホモログであるAra h 8 はおもにシラカンバ花粉症の多い地域において口腔粘膜症状を3)、LTPであるAra h 9は地中海地方の患者において重篤な誘発症状をもたらすことが報告されています。
◎経口負荷試験では非常に強い重篤なアレルギー症状が出てくることがあります。
◎4ヶ月の乳児がピーナッツオイルを全身に塗布されていたところ紅斑をきたすようになりました。この児のピ-ナッツ特異的IgE抗体はクラス4で、ピーナッツを食べたことがないことから外用から食物抗原が侵入し、感作されたと考えられました。
カシューナッツアレルギー
カシューナッツは勾玉のような形をしており、殼に包まれています。果実の外部先端になる種子で果実と異なりますが、歴史的にナッツとして扱われてきました。
この殼には毒性をもった油分が含まれており、安全に食べられるように加工するためにはローストなどの行程を経て処理する必要があります。インド、タイ、中国などにて消費量が多いです。
消費者庁が行った調査でアレルギー症状を起こして医療機関を訪れた約3000例の内、カシューナッツによるものが18例、アナフィラキシー5例あったと報告されました。
加工食品としてアレルギー物質として表示を推奨する品目にごまとカシューナッツが加えられる方針となりました。今までは表示推奨品目になっていなかったので、食品に含まれていても原材料として表示されていない場合が多く、注意が必要でした。
加工食品に含まれることが多いので注意が必要です。 カシューナッツの主要抗原は、Ana o l (7Sグロブリン)、Ana o 2 (11sグロブリン)、Ana o 3(2sアルブミン)です。
カシューナッツアレルギーを示す患者さんにおける各アレルゲンコンポーネントへの感作率はAna o l 50%、Ana o 2 62%、Ana o 3 81%との報告があります。
カシューナッツは同じウルシ科に属するピスタチオと血清学的にも臨床的にも高い交差反応性を示すことが知られています。その他のナッツとも同時に感作が証明されることも多いのですが、カシューナッツ自体への感作は一時的と考えられています。
カシューナッツアレルギーでは、アナフィラキシーを含めた重篤な症状を呈することが多く、ピーナッツと比較してもリスクが高いと言われています。
従来から使用されているカシューナッツ特異的IgE抗体検査(以下、f202カシューナッツ)は、臨床的感度は十分であるものの、臨床的特異度が十分ではないことが指摘されていました。
これは検査陽性者の中にカシューナッツを摂取可能な患者さんが含まれることを意味します。カシューナッツアレルゲンは複数の種類のタンパク質(アレルゲンコンポーネント、以下コンポーネント)で構成されており、患者さんによってどのコンポーネントに感作されているかは異なります。
中には、他の食品にも類似したコンポーネントが含まれており広範囲な交差反応を示すものの、症状発現との関係は強くないコンポーネントもあります。
こうしたコンポーネントにのみ感作されている患者さんもf202カシューナッツでは陽性として判定されますが、実際にはカシューナッツを摂取可能な非カシューナッツアレルギーである可能性があります。
カシューナッツ由来のコンポーネントAna o 3は、Ara h 2(ピーナッツ由来)やJu9 r l (クルミ由来)と同じ2Sアルブミンに属しており、カシューナッツアレルゲンの中でも熱や消化に対して高い耐性を示し、
全身性の症状発現に強く関与していると報告されています。
Ana o 3に感作されている患者さんは、実際にカシューナッツの摂取でアレルギー症状を誘発する可能性が高いと考えられます。
ピスタチオ:ピスタチオはカシューナッツと同じウルシ科に属する近縁の種にあたり交差性が高いため、カシューナッツアレルギーの患者さんはピスタチオの摂取にも注意が必要です。 くるみ(juglandaceous)
食用のくるみの品種は多数ありますが、問題となるのは、Juglans regia(亜種も含めてペルシャグルミ、イングリッシュグルミ、テウチグルミ、シナノグルミとよぱれる品種などがこれに該当する)と Juglans nigra(クログルミ、ブラック・ウォルナットなどとよぱれる)の2種類とされています。
特に本邦では、分類される政府統計の総合窓口(e-Stat)によれば流通するくるみのほとんどがカリフォルニアからの輸入品であり、これはJuglans regiaです。
くるみJuglans regia の主要アレルゲンは、Jug r l(2Sアルプミン)、Jug r 3(LTP)、Jug r 2(7Sグロプリン)、Jug r 4 (11Sグロブリン)です。Jug r l/3はプロラミンスーパーファミリー、Jug r 2/4は クピンスーパーファミリーであるため高い耐熱性を有し 、全身的な症状を引き起こしやすいのです。 これらのアレルゲンは、他の植物中のホモログタンパクとアミノ酸配列において高い一致率を示し、特異的lgEの交差反応性が強くでます。LTPはその強い耐熱性・耐消化性より経腸管的に感作され、 クラス1食物アレルギーを引き起こすといわれますが、イタリアからの花粉症を有さないくるみアレルギー患者を対象とした報告では,LTPの感作源はモモであり,くるみへの感作は二次的であると示唆されています。
また、地中海地域におけるくるみ特異的lgEの反応性はLTPの感作と強く関連すると報告されており、くるみのアレルゲンコンポーネントヘの感作パターンは地域によって異なる可能性があります。 ※ LPT:(nonspecific lipid transfer protein) 2sアルブミンはプロラミンスーパーファミリーに分類される蛋白質で、穀類のαアミラーゼ/トリプシンインヒビターやLTPなどがこのファミリーに属しています。
※イムノキャップ アレルゲンコンポーネント
f423 Ara h2(ピーナッツ由来) ピーナッツアレルゲンコンポーネントの一つ。ピーナッツの主要蛋白質の一つで、臨床症状発現と強い関係性が報告されているコンポーネントです。
イムノキャップ特異的IgEf13ピーナッツに対する特異的IgE検査の結果と組み合わせて判定することで、より安全でより正確なピーナッツアレルギー、非ピーナッツアレルギーの判定に有用です。また、危険を伴うピーナッツの経口試験を減少させることが可能となります。
参考文献
Phadia ALLAZIN allegy News winter CRD ナッツアレルギーと診断 栗原和幸先生のパンフレットより
※thermoscientific ALLAZIN イムノキャップ アレルゲンコンポーネント Ana o 3(カシューナッツ由来)の活用方法について より
1)海老澤元宏、日本小児科学会誌 27:621-628、2013
2)Asarnij A,Int Arch Immunol allergy 159:209-212,2012
3)Mittag D,J Allergy Clin Immunol 114:1410-1417,2004
主の文献は 漢人直之 小児科診療 78:1239-1246,2015 から記載させていただきました。