小児新型コロナ感染症


子どもの「コロナ感染リスク」についてわかっている4つのこと〜最新研究から〜 (YAHOO Japan ニュース コピー 2021.9.11)

松村むつみ氏(放射線科医、医療ライター)によると

1. 感染経路は、家庭内感染が7割

出典:日本小児科学会

 子どもたちは、どこからウイルスをもらってくるのだろうか。インフルエンザや風邪は学校や保育所で流行することが多いが、新型コロナウイルス感染症の感染源は約7割が家庭内感染で、先行感染者は親などの家族だ。  2021年8月30日に日本小児科学会が「データベースを用いた国内COVID-19症例の臨床経過に関する検討」の中間報告を出したが、それによると、2020年2月1日〜2021年6月30日では、幼稚園・保育施設での感染は各6%にとどまっていたものの、2021年7月1日〜8月17日には9%に微増しており、保育所において、誰から感染するかということについては、成人が減って小児が増えている(※1,2)。  これは、感染者が増えて小児にも感染が広がっていることと、成人はワクチンを受けた人が増えてきたことが関係している可能性もある。学校での感染は横ばい傾向だが、今後増加するか注視していく必要がある。  小児の家庭内感染は、思春期以上の年長児よりも3歳以下などの低年齢児でリスクが高い傾向があると報告されている(※3,4)。低年齢児はマスクが出来ない、大人と離れられないなど、行動様式的に感染予防が難しいことがまず挙げられる。ウイルス排泄量に関しては、低年齢児で多いという報告(※5)も、高い年齢の児童と大差ないとした報告がある(※6)。  現在、家庭内感染は深刻だ。もともと、家庭内感染の予防には、部屋を分ける、家庭内であっても不織布マスクをするなどが挙げられていたが、感染力が従来の株よりも高くなっているデルタ株では、それだけで感染を防ぐのは難しい。  では、家庭内感染が実際に起こってしまったらどうなるのか、何に気をつけておかねばならないのか、今から考えておく必要があるだろう。  子どもの感染は、親からの感染が多い。親が検査陽性になり、子どもも陽性なら、入院あるいは隔離施設に入るわけだが、子どもが陰性だった場合は、入院や施設隔離で対応している自治体もあるが、自宅待機となってしまう場合もある。そうなった場合に、あらかじめ子どもの預け先は考えておく必要がある。  預け先としては、ワクチンを2回接種完了した祖父母や親戚が考えられるだろう。しかし、特に都市部では、親族が近くにいない人も多い。そのような場合は、基本的には各自治体で児童養護施設が受け入れ先となる。自分が感染して、子どもの預け先に困っている場合は、自治体の窓口に問い合わせてほしい。

2. デルタ株で子どもの致死率上昇ははっきりしない

 日本では最近ほとんどデルタ変異株に置換されているが、デルタ株は感染性が高いとされ(アメリカのCDCは、水痘並みに基本再生算数が8程度ある、つまり1人の感染者が8人に感染させうるとしている)、ワクチンを打っていない若年層の増加に伴い、20歳以下の感染も増えている。成人を含めたデータでは、デルタ株による重症化リスクが報告されている(※7)。  ただ、インドネシアではデルタ株が流行している期間に小児の致死率が上昇していることが報道されているが(※8)、日本やイギリスのような先進国では、そのような傾向ははっきりしない。 日本では、小児の感染者は累積で10歳未満が7万7606人、10代が15万4495人(9月7日時点、厚生労働省)だ。9月1日〜7日の1週間では、10歳未満の新規感染者8113人、10代が1万1458人となったが、それに対して重症者は10代が1名、死亡は10代で1名だ。そしてイギリスでは、小児の致死率は従来株やアルファ株が優勢だった2021年2月までで100万人に2人程度と報告され(※9)、その後のデータでも、小児の死亡は依然として低い水準となっている(※10)。しかし、感染者数そのものが増えると重症者も増えるので、小児の感染者を増やさないことが重要だ。  ここでみてきたように、子どもは依然として重症化が少なく、「デルタ株は怖い」と、子どもに関してむやみにパニックにならないようにしたい。その一方で、肥満や基礎疾患のある子どもに関しては、これまで通り感染対策の気を抜かないようにしたい。

3. 小児の重症化は下痢や発疹に注意

 成人と異なり、小児は頻度は少ないが重症化することがあり、大人と同様に肺炎で重症化することもあるが、それに加えて「小児多系統炎症症候群」という病態が知られている(成人にも同様の病態があるといわれている)。  小児多系統炎症症候群はもともと、ヨーロッパなどで「新型コロナウイルスの感染により起こる川崎病類似の病態」として報告されていた。小児でも成人同様に、新型コロナウイルスの感染では発熱や咳などの症状が見られるが、それに加えて、感染してから2〜6週間後(PCR検査は陰性になっていることが多い)に、

 ・腹痛や嘔吐、下痢などの消化器症状

 ・結膜炎

 ・頭痛や錯乱、眠いなどの中枢神経症状

 ・粘膜の異常

 ・手のむくみ

 ・リンパ節の腫れ

 などの症状が見られたら要注意だ。また、小児多系統炎症症候群では心臓の機能が悪くなることがわかっている。

 小児多系統炎症症候群が長期的に子どもたちにどんな影響を与えるかということは、まだはっきりとはわかっていない。小児多系統炎症症候群にかかった小児たちを1年間フォローアップしたイギリスの研究(※11)では、68例の患者のうち死亡例はなく、2名が重症化による再入院を経験している。入院期間の中央値は10日で、人工呼吸器が必要になった小児はいなかったという。 心臓に血液を供給する血管に動脈瘤ができた小児が19人いたが、そのうち14人は動脈瘤が消えてもとに戻った。また、動脈瘤がなく心臓の機能が低下していただけの小児は、全員が1年経過した時点で心臓の機能は回復して元に戻っていた。 この研究の結果は少人数なので信頼性には限界があるが、長期の経過は、良好に回復している小児が多いといえそうだ。  また、成人で問題になっている「コロナ後遺症」だが、小児の感染増加に伴い、小児ではどのような症状があるのか気になる親も多いのではないだろうか。症状は、疲労感、頭痛、集中力の低下、不眠などだが、当初は3割以上が後遺症に悩むのではという報告もあった(※12)。しかし、感染や環境の変化といったトラウマによる精神的影響との区別が難しく、血液で過去の感染の有無を調べて、感染がない人と比較した研究では、統計的な差がなく、これまで思われていたよりも、小児のコロナ後遺症の頻度は少ないのではと示唆する研究もある(※13)。

4. 小児のワクチン接種の副反応に重篤なものは少ない

 日本でも、成人の間ではワクチン接種が進んでおり、小児では12歳以上が接種の対象となっている。思春期の子どもを対象とした臨床試験で、ファイザーおよびモデルナのmRNAワクチンは、成人と同様に高い効果を示した。ファイザーは3000人規模の臨床試験で有効性が100%(※14)。モデルナも、3700人規模の12〜17歳を対象とした臨床試験で有効性が100%だった(※15)。  ファイザーとモデルナは現在、12歳未満の小児に対する臨床試験を行っている。ファイザーは4500人規模の、モデルナは6000人を超える規模の臨床試験で、それぞれ年齢層を3つに分けて行っている(例えば、ファイザーは5〜11歳、2〜5歳未満、生後6ヶ月〜2歳未満で分け、容量などを変えている)。ファイザーはモデルナよりも臨床試験の進行が早く、9月中には5〜11歳の、10月には2〜5歳未満の緊急使用許可を申請する予定とのことだ(※16)。  国内で使われているワクチンにはアストラゼネカもあるが、これは若年者で血栓症などの副反応がある関係から、40歳以上の接種となっており、小児は対象外である。  さて、気になる小児のワクチンに対する副反応だが、前述のファイザーの臨床試験では死亡例やアナフィラキシーはみられず、発熱や注射した部位の痛み、頭痛や倦怠感が主な副反応であり、安全性に問題はなさそうだ。また、モデルナの臨床試験でも同様に、重篤な副反応は認められていない。  若年者における重篤な副反応として心筋炎がよくメディアで取り上げられているが、心筋炎はこれまでの報告では非常に頻度が低く、100万回接種で6件程度といわれている(※17)。小さな子どもに関してはまだ未知数だが、11歳以下の臨床試験の結果を待ちたい。

---------- ※1 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210908/k10013249831000.html

※2 https://www.asahi.com/articles/ASP972V23P92UTIL04R.html

※3 https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2783022

※4 https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(20)30981-6/fulltext

※5 https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2768952

※6 https://www.science.org/lookup/doi/10.1126/science.abi5273

※7 https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(21)00475-8/fulltext

※8 https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.07.07.21259779v1

※9 https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/birthsdeathsandmarriages/deaths/datasets/weeklyprovisionalfiguresondeathsregisteredinenglandandwales

※10 https://www.thelancet.com/journals/lanchi/article/PIIS2352-4642(21)00198-X/fulltext

※11 https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2783539

※12 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/apa.15870

※13 https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.05.11.21257037v1

※14 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2107456

※15 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2109522

※16 https://www.nytimes.com/2021/07/26/us/politics/fda-covid-vaccine-trials-children.html

※17 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2784015


前の画面に戻る クレチン症へ
禁転載・禁複製  Copyright 1999 Senoh Pediatric Clinic All rights reserved.