新型コロナウイルス感染症 ビタミンDの効果
■ビタミンD不足の人は感染しやすく重症化もしやすい
新型コロナウイルス感染症の重症化患者では、ビタミンD不足の人が有意に多いことが、複数の研究で明らかになっています。またビタミンD不足の場合、感染リスクも高まるという報告もあります。 これまで新型コロナとビタミンDとの関係を調べた論文の約8割で、ビタミンD不足が新型コロナの感染・重症化に関連していると結論づけています(1)。そのような論文では、ビタミンDが不足している人では、感染リスクが約1.5倍増え、軽症以上の入院リスクが1.8〜2倍になり、重症化するリスクが2〜2.6倍高まると報告されています。 なぜビタミンDに新型コロナに対してこのような効果があるかについても、研究は進んでいます。ビタミンDの免疫系に対する効果を調べた研究から、ビタミンDには免疫系のウイルス反応性を高め、新型コロナの重症化にかかわるサイトカインストームを減少させることがわかっています(2)。
■ビタミンDには新型コロナの「治療」効果も
さらに新型コロナウイルスの感染患者にビタミンDを投与したところ、重症化する人が著しく減るという、驚くべき結果がスペインから報告されました(3)。 新型コロナに対するビタミンDの治療効果を調べるために、50人の感染者にビタミンD代謝物(カルシフェジオール)を投与したところ、ICUへの入院を必要としたのは1人(2%)だけで、死亡した患者は1人もおらず、すべての患者が合併症もなく退院しました。一方、投与しなかった26人の患者では、13人(50%)がICUへの入院を必要として、2人が死亡し、残りの11人は退院したそうです ビタミンD代謝物を投与しなかった群に比べて、投与した群では重症化リスクが90%以上減ったということになります。俄(にわ)かには信じられないくらいの著しい効果です。患者数が少なく、解析方法の不備も指摘されていましたが、詳細な検証の結果、ビタミンDの効果は明らかとなっています(4)。
■世界中の200人以上の科学者が服用を推奨
ここまで述べてきたように、血中のビタミンD不足は、ほぼ確実にCOVID-19の感染、重症化、死亡を促進することが示されています。このことから昨年12月に、世界中の科学者・医師ら200人以上が、すべての政府、公衆衛生当局、医師、医療関係者に対して、ビタミンDの摂取量をすぐに増やすよう求める公開提案書を出しました(5)。 提案書の中では、具体的に以下のような推奨項目を挙げています。
---------- ・25-ヒドロキシビタミンD〔以下、25(OH)D〕の血清レベルが30ng/mL(75nmol/L)以上になるよう、すべての供給源からの摂取を推奨する。 ・成人には、1日4,000IU(100μg)、あるいは少なくとも2,000IUのビタミンD摂取を推奨する。 ・過度の体重、肌の色の濃い人、介護施設で生活している人などビタミンD欠乏のリスクが高い成人は、より高い摂取量(例えば、2倍)を推奨する。 ・まだ上記の量を摂取していない大人は、2〜3週間(または検査で測定する場合は30ng/mLを達成するまで)毎日10,000IU(250μg)を摂取してから、上記の毎日の量を摂取することを推奨する。 ・すべての入院したCOVID-19患者については、25(OH)Dレベルを測定して、少なくとも30ng/mL(75nmol/L)以上になるように、カルシフェジオールまたはビタミンD3を投与する。 ---------- 提案書では、「ビタミンDの不足は、新型コロナに大きな影響を及ぼすリスクの中で、最も容易に、かつ迅速に修正可能なリスク因子である。またビタミンDは安価である。」としたうえで、最後に「すぐに行動してください」と結ばれています。
■ビタミンD不足の日本人
ビタミンDは人間が生きていくためには必須の栄養素です。そのため太陽光を利用して体内で合成できるように進化してきたと考えられます。例えば赤道に近いアフリカで誕生した人類は、高緯度に移住する過程で、太陽光を効率的に取り込めるように、肌のメラニン色素が減っていったといわれています。 ビタミンDを合成する能力は遺伝性が強く、その能力は人によって異なります。日本人は比較的ビタミンDの合成力が低く、欠乏症になりやすい人が多いことがわかっています。自分がビタミンD不足になりやすい体質かどうかは、DNA検査で調べることができます(筆者プロフィールにリンクがある「新型コロナ感染・重症化リスク検査」では、ビタミンD不足のリスクについても調べることができます)。 また特に女性では、美容のために日焼け止めや肌の露出の少ない衣類の着用などによるUVケアを徹底するようになってきたこと、さらに魚の摂取が少なくなっていることなどから、ビタミンD不足が深刻化してきています。 最近日本で行われた疫学調査によると、ビタミンD不足の割合は、年代を問わず70〜90%にも達していたということです。さらにコロナ禍で外出を自粛している場合や、太陽からの紫外線が弱くなる冬場は、ビタミンDが不足している可能性が非常に高まっているのです。
■摂取は食事と日光浴から
ビタミンDが欠乏しないようにするためには、日光浴とビタミンDが豊富に含まれる食品を摂ることが重要です。 ビタミンDは魚介類、卵、キノコなどに多く含まれます。牛乳などの乳製品にも多少含まれますが、野菜や肉類にはほとんど含まれていません。例えばビタミンDを10μg摂取するためには、魚であればサケ:半切れ、サンマ:1尾、カレイ:1切れ、マグロ:刺身15切れ、キノコ類なら乾キクラゲ:2.5g、干しシイタケ:65g、卵なら7個となります。 食事から十分量のビタミンDを摂取するのは難しい場合は、サプリメントの服用も有効です。欧米ではビタミンDのサプリメントを日常的に摂取することが、医者や政府からも推奨されています。1日のサプリメントによるビタミンDの摂取目安は、10〜25μgです。ただしコロナ対策として科学者が推奨している摂取量は、1日100μgです(5)。 ビタミンDは日光浴によって皮膚でつくりだすこともできる栄養素です。夏であれば、日焼け止めなしで日中に5分から10分、冬なら関東では20分から30分、北海道では1時間以上の日光浴が推奨されています。ただしガラス越しや日焼け止めを塗った場合は効果がなくなりますのでご注意ください。またこの目安の時間の2〜3倍以上の紫外線を浴びてしまうと、シミやしわができやすくなり、発がんリスクが高まります。食事やサプリメントによる摂取と併せ、生活習慣に適度な日光浴を取り込むようにしましょう。 とはいえ、日光浴という習慣は北欧諸国ならともかく、日本人には慣れない習慣だと思います。そこで、もっとも効率がいいのは、散歩やウォーキングの習慣を取り入れることです。 これなら、太陽の光を十分に浴びながら、肥満にならないようエネルギーを消費することもできるでしょう。
■新型コロナ対策としてビタミンD摂取を検討しましょう
多くの研究者が懸念していたように、昨年の11月中旬頃より、新型コロナの感染が急拡大しています。この原因の一部は、冬場の紫外線減少や外出機会が少なくなったことによるビタミンD不足によるものかもしれません。 世界的には新型コロナに対するビタミンDの効果については、認知されはじめています。アメリカのトランプ前大統領が新型コロナに感染した際も、最新の治療薬とともに、ビタミンDを服用していました(6)。またアメリカでコロナ対策を主導している、国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、「ビタミンDが欠乏していると感染症にかかりやすくなる。そのため、摂取を推奨しても構わないと考えている。私自身も、ビタミンDのサプリメントを取っている」と話しています(7)。 ワクチンについては、春以降に一般の方への接種がはじまる予定ですが、全国民にいきわたるにはまだまだ時間がかかりそうです。新型コロナの感染・重症化を防ぐためにも、ビタミンDの服用を検討してもいいかもしれません。
参考文献 1)Risk Manag Healthc Policy.2021;14:31.
2)Front Immunol.2020;11:590459.
3)J SteroiD Biochem Mol Biol.2020;203:105751.
4)medRxiv preprint;this version posted December 21,2020.
5)#VitaminDforAll:Over 200 Scientists&Doctors Call For IncreaseD Vitamin D Use To Combat COVID-19
6)REUTERS「抗体カクテルを使用、トランプ氏のコロナ治療計画」(2020/10/3)
7)Forbes「新型コロナ死亡リスク、米国人は血中ビタミンD濃度と深く関連か」(2020/9/29)
---------- 玉谷 卓也(たまたに たくや)
免疫学者・順天堂大学医学部講師
薬学博士。日本免疫学会評議員、順天堂大学非常勤講師、エムスリー株式会社アドバイザー。主な専門領域は、免疫学、炎症学、腫瘍学、臨床遺伝学。20年以上、免疫、がん、線維症、アレルギー、動脈硬化などの研究に従事。監修書籍に、『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(プレジデント社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、順天堂大学医学部の小林弘幸教授の監修のもと、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。