爪の異常
1.発生のメカニズムと原因疾患
1)非薄化
扁平〜匙状爪、爪甲(そうこう)が2〜3層に分裂し、表面が雲母様に剥離する爪甲層状分裂、爪甲の縦裂などは、爪甲が非薄化し、物理、化学的刺激に対して弱くなるために生じる現象である。爪甲の硬さはカルシウムによるものではなく、蛋白質の一種である硬ケラチンによるものである。
極端な栄養障害では爪甲の形成が不良となるが、甲状腺機能九進症や低色素性貧血における爪甲の非薄化のメカニズムは不明である。
匙状爪は、指腹に加わる力よりも爪甲の支える力が弱いときに生じる。手指に力の加わる仕事をする人に生じやすいもので、すべての爪甲に生じるのは稀である。全身疾患と無関係に生じている例がある。すなわち、職業性にも生じやすい。
爪甲層状分裂は、爪甲の水分含量の低下が原因となって生じ、外界の湿度が低下する冬季に発生しやすい。
2)肥厚
爪甲が厚く、硬くなるのは、おそらく爪甲の発育方向が、正常よりも上方に向くためではないかと考えられる。原因疾患としては黄色爪症候群と先天性厚硬爪がある。
3)脱落
爪母に水疱を形成したり、強い炎症を生じると、その1〜2ヵ月後に爪甲は脱落する。
炎症が強くない場合には、古い爪甲と新しい爪甲の境界が、横走する線条として認められる。 2.形の異常のSigns&Symptoms
すべての爪甲が非薄化し、柔らかい場合には、低色素性貧血、甲状腺機能亢進症、特殊な場合には栄養失調が考えられる。低色素性貧血では爪床部がやや蒼白化し、爪甲層状分裂を伴ったりする。
自覚症状としては易疲労感、体動時の動悸と息切れ、倦怠感などがみられる。甲状腺機能亢進症では、爪甲周囲に軽度の爪甲剥離を認めることがある。
甲状腺腫や頻脈、眼球突出の他に、自覚症状として易疲労性、全身倦怠、微熱、体重減少がある。
すべての爪甲が厚く、硬くなる疾患としては、リンパ浮腫に伴って生じる黄色爪症候群がある。爪甲は黄色調を帯び、四肢、ことに下肢にリンパ浮腫を認め、胸水の貯留がある。
先天性のものとしては先天性厚硬爪があり、掌跨の角化、多汗を伴う。
すべての爪甲が萎縮あるいは脱落を生じる疾患としては、Cronkheit-Canada症候群がある。他の症状としては、消化管ポリポージス、脱毛、皮膚の色素沈着、低蛋白血症がある。下痢が早期症状である。
全身に滲出性紅斑あるいは水抱を生じる疾患でも後になって、爪甲の脱落を生じる。 3.形の異常の鑑別診断
匙状爪では、末梢血液像および甲状腺機能検査(血中甲状腺ホルモン測定、BMR、サイロイドテスト、ミクロソームテストなど)をおこなう。もし、異常がなければ職業性に生している可能性があるので、日常生活について十分問診する。
扁平爪や爪甲層状分裂でも末梢血液像、甲状腺機能検査をおこなう。なお、乳幼児では、爪甲は元来非薄で柔らかいので、健康な場合でも爪甲層状分裂を生じやすく、扁平〜匙状爪となりやすい。全身性強皮症、SLE、DLEでも爪甲が非薄化し、縦裂を生じたりするので、レイノー現象の有無、皮疹の有無に注意する。
肥厚した爪甲は、黄色調が強ければ黄色爪症候群を考えて、胸部レ線撮影をおこなう。胸水の貯留を証明すれば診断は確定する。胸水の貯留のない場合には原発性リンパ浮腫を証明しなければならないが、なかなか困難である。臨床的には下肢に浮腫を認めるが、リンパ管造影はかならずしも異常とはかぎらない。
爪甲が混濁していれば、爪甲または爪甲下角質を採取して、直接顕微鏡で検査し、真菌の有無を調べ、爪真菌症を否定する必要がある。
(文献 日医ニュース 市立堺病院皮膚科部長 東禹彦先生より)