起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysreguration)


起立性調節障害は自律神経失調症の一つで、主として起立に伴う循環調節障害に起因するめまい、立ちくらみ、動悸などの低血圧症状が中心です。そのほか、腹痛、頭痛、乗り物酔いなどの自律神経系の不定愁訴が出現する症候群です。本症は身体が急速に成長する小学校高学年以降に次第に増加する傾向があります。男児より女児に多くみられ、春から夏にかけて症状が顕著になります。

原因
下肢静脈の調節障害、特に起立に伴う血液の貯留が末梢に起こり、その結果静脈還流の減少をきたし、心拍出量が低下して一過性の脳虚血が生じた結果起こります。正常人の脳には脳循環自動調節機構が働いており、多少の動脈血圧の変動では脳循環は変化しないのですが、本症ではこの機構にも失調があるとされています。
その代償機構とは
 @頸動脈洞、大動脈弓の圧受容体およびアドレナリン分泌を伴う交感神経緊張による末梢血管の収縮
 A交感神経緊張に伴う心拍数の増加
 B呼吸運動に伴うリズミカルな胸腔内圧の変化による右心系への静脈還流増加
 C骨格筋の緊張増加および収縮による静脈還流の増加
 D交感神経系を介した静脈緊張により貯留した血液は循環系へと送り出される
などです。 このうちDが最も重要とされています。
したがって本症の立ちくらみは前庭機能障害や小脳障害に伴う平衡感覚失調によって起こる回転性のめまいと区別しなければなりません。

診断は以下の診断基準によります。
起立性調節障害の診断基準
       大症状   
        A.立ちくらみあるいは眩量を起こしやすい.   
        B.立っていると気持が悪くなる.ひどくなると倒れる.
        C.入浴時あるいは嫌な事を見聞きすると気持が悪くなる.
        D.少し動くと動悸あるいは息切れがする.
        E.朝なかなか起きられず,午前中調子が悪い.
       小症状
        a.顔色が青白い.
         b.食欲不振
        c.臍痛痛(強い腹痛)をときどき訴える. 
        d.倦怠あるいは疲れやすい.  
        e.頭痛をしばしば訴える. 
        f.乗り物に酔いやすい.  
        g.起立試験で脈圧狭小16mmHg以上.
         h.起立試験で収縮期血圧低下21mmHg 以上
         i. 起立試験で脈拍数増加21/分以上.
        j.起立試験で立位心電図のH誘導のT波の0.2mv以上の波高,その他の変化.
       判定
        本症は上述の症状のうち,
         @大症状1つと小症状3つ  
         A大症状2つと小症状1つ
         B大症状が3つ以上
        のいずれかの条件を満たし,しかも器質的疾患が除外された時、起立性調障害とする

同様の症状を呈する他の器質的疾患を除外しなければなりません。

治療
除外診断をきちんとして、重大な病気ではないことを説明し、不安を和らげ,心理的ストレスを軽くすることにつとめます。
規則正しい日常生活をして、起床時はいったん座位となりゆっくり起床することが大切です。食事は塩分を少し多めに取ります。
症状が軽減してきたら、適度な運動を勧めます。下肢を鍛える運動が望ましく、中でも水平の体位である水泳が理想的です。
薬物治療をする前に乾布摩擦や冷水摩擦などの自律神経鍛錬療法を行うことも重要です。

薬物療法
大症状の強いもの
 めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、朝起きが悪い、気持ちが悪くなるなどの主として循環器症状を中心とする症状が強い場合にはカルニゲンやエホチールなどの昇圧剤を用います。
        メトリジン(塩酸ミドドリン) 1錠(2mg) 1日2回 起床時、夕食後 
       メトリジンはOD錠(口の中で溶ける)がありますので、起床時に内服しやすいです。
      カルニゲン 2〜6錠 
      エホチール 1〜3錠 
      リズミック(アメジニウムメチル硫酸塩)(10mg)1-2錠 起床時のみ または起床時・昼 2回
これらの薬剤は夕食後に内服すると、不眠を起こすので、通常朝、昼に内服します。
ジヒデルゴットやメトリジンも有効な場合がありますが、これらの薬剤は睡眠障害を起こすことはないので、夕食後内服も可です。
      ジヒデルゴット(エルゴタミン系血管収縮剤 1錠1mg)成人1回1錠1日3回:トリプタン系の片頭痛治療薬と併用しないこと
小症状が強いもの
 腹痛、頭痛、乗り物酔い、倦怠感などの自律神経不安定症状を主とした小症状に対してはグランダキシンなどの抗自律神経剤を用います。このような症状を訴える場合でも循環器症状も一緒に訴えることが多いので、他の薬剤と併用する必要があります。
      グランダキシン錠(50mg) 2-3錠 分2-3
 不安、緊張、抑うつ、睡眠障害など神経症傾向が強いもの  デパス(0.5mg) 2錠 分2
      薬物依存性が認められることがあるので、併用は短期間にとどめること。

起立性調節障害の治療法は、生活習慣の改善が基本になります。
◎病気を理解する
◎規則正しい生活…昼ごろでもいいので無理なく起きられる時間を決めて、毎日その時間に起きる
◎適度な運動…体調がよいときに散歩をするなど、少しでも体を動かす
◎食事…貧血を防ぐため、塩分と水分を多くとる
◎心理的ストレスを減らす
◎症状に合った薬の服用

起立性調節障害の症状は一般に午前中、特に朝出現することが多いので、服薬はできるだけ朝早く、目が覚めたらすぐ布団の中で朝の分を飲むのが効果的です。
薬剤の内服開始後、通常、1〜2週間で効果が見られます。有効である場合は1〜2ヶ月間内服を続け有効性が認められない場合には他の薬に変更するか、基礎疾患がないかどうか診断を再検討する必要があります。ただ、8週間で最大の効果が現われるのでそれまでは辛抱強く内服することも大切です。

不登校はODのせいだと考えられがちですが、そうとは限りません。ODのみが原因である「OD単純型」では治療で比較的すぐに元気を取り戻し、登校できるようになります。 OD治療を受けてもあまり効果がなく、不登校が長期化する場合は、他の病態(知的アンバランス・発達特性など)が併存した「OD複合型」であることが多いようです。小児神経専門医や自動精神医などに診察を受けるようにします。

(文献 6)

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