皮脂欠乏症


皮脂欠乏症とは

 手足がかさかさに乾いてかゆくなる疾患です。気温が低く乾燥しやすい冬場によく見られる疾患の一つです。
健康な肌は適度な水分、脂分があって、しっとり、滑らかに保たれているのですが、老化などによって体の生理機能が低下、肌に潤いがなくなるためにかゆみを引き起こします。 皮脂の分泌が少ない子どもたちと老人に多い病気でもあります。
小児の場合は皮脂欠乏性皮膚炎として小児乾燥性湿疹となり、冬季に悪化する粃糠様の細かい麟屑と皮膚の湿疹が見られる、いわゆるハタケも含まれます。

 皮膚は表面から表皮、真皮、皮下組織の三つに分かれています。私たちが目にする肌は表皮の最も外側にある角質層のことで、その下に頼粒(かりゅう)層、有棘(ゆうきょく)層、 基底層があります。
 表皮を構成する細胞は基底層で作られた後、分化しながら皮膚の表面に向かって移動します。最終的に細胞核を失って角質層を形成します。  
古くなったものは垢(あか)となってはがれ落ちますが、その下から出てきた別の角質細胞が新しい肌を作ります。
  顆粒層から角質層へ変わる時、細胞から脂質の元になる物質が放出され、角質細胞のすき間をぴっちりと埋めます。この脂質が体の水分を保持する重要なファクターになっています。
肌がかさかさになるのは老人の場合は老化によって脂質が減り、水分が逃げやすくなるためなのです。さらに乾燥の原因として体全体に細胞の代謝機能が落ちて汗などの体内から出る水分量が減るためです。
肌の表面をコーティングする脂腺から出る皮脂が減ります。皮脂欠乏症では体のいたるところがかゆくなります。
目立って多いのがすねや肩、ひび割れや腰など。かゆさのあまり爪で引っかいてかさぶたを作ったり、かきこわしてひび割れや炎症、湿疹(しっしん)になるなどの悪循環を招くことが多いのです。
 なぜかゆみを感じるのか、原因を含め、そのメカニズムははっきり分かっていないのです。例えば、じんましんでは肥満細胞から分泌されるヒスタミンが知覚神経を刺激してかゆく感じるとされています。
皮脂欠乏症の場合も、ヒスタミンのようなかゆみを引き起こす化学物質が関与していたり、衣服が擦れて乾燥した皮膚を刺激するため、などのさまざまな要因が考えられています。 ただし、こうした全身のかゆみは、糖尿病や痛風、腎(じん)不全といった皮膚以外の病気でも起きます。
皮脂欠乏症のかゆみは普通、暖かくなるにつれて治まってくるものです。春になってもかゆみが止まらないようであれば、他の病気を疑ってみる必要があります。

治療
皮膚が乾かないようにすることが重要です。
角質の水分を保持する作用がある尿素軟膏やワセリン、ヒルドイドやアズノールのような油分の多い軟膏などが効果があります。
特に入浴時や就寝時には、心身がリラックスするため、日中は気にならないかゆみにも敏感になり、ついひっかいてしまいます。時には不眠になるケースもありますが、このような場合には抗ヒスタミン剤などの内服薬を使います。
湿疹化したものには副腎皮質ステロイド軟膏が有効です。
ふろ上がり5分以内に保湿軟膏を塗って、肌に油分を補ってやれば、かゆみはかなり抑えられます。毎日塗りましょう。副腎皮質ステロイドを塗って良くなった状態を保つために繰り返し保湿軟膏を使用しましょう。

注意
 入浴時に、せっけんをつけたタオルでこすって皮膚の脂を落とし過ぎないようにしましょう。タオルは化繊の物はよくありません。
 下着はウールや化学繊維より、通気性がよく肌に優しい綿製品をできるだけ使用してください。ジーパンはあまりおすすめではありません。
 体が暖まると血の巡りがよくなってかゆみを増すので、部屋の温は寒くなりすぎないようにまた、湿度は高めに維持しましょう。
 乾燥しやすい肌の人は、日ごろから十分なスキンケアを心掛けてください。

小児のドライスキン

 皮膚の表面の角質層の水分が減少して起こる乾燥状態です。乾燥することにより、皮膚の柔軟性が低下し、固く、もろくなります。
皮膚の水分は、発汗、不感蒸泄、湿度により供給されます。しかし、どんなに水分が供給されても、蒸発すれば水分を保持することはできません。
そのため皮膚は保湿成分である、皮脂膜(トリグリセライド、スクアレン)、角質細胞間脂質、天然保湿因子(NMF:natural moisturizing facter)によって、供給された水分が逃げてしまわないように守られています。
ドライスキンは供給される水分の不足だけでなく保湿力が低下した結果、角質に保持された水分量が不足するために起こるのです。
※皮脂膜 性ホルモン刺激により皮脂を分泌しており、これが毛孔から皮膚表面に出て汗と混合されてクリーム状の皮膜を形成します。
 角層からの水分蒸発を防いで乾燥させにくくする
 外界からの物質が侵入しにくいように保護する
 皮膚表面を弱酸性に保ち病原菌の繁殖を防ぐ
※NMF 角化細胞(ケラチノサイト)が分化する過程でフィラグリンなどのタンパク質から作り出される。アミノ酸、尿素、乳糖、塩基類などで構成されます。
※角質細胞間脂質 角化細胞から分化する過程で作られ、スフィンゴ脂質(セラミドなど)、コレステロール、コレステロールエステル、遊離脂肪酸などで構成されます。

 小児の体の70〜80%水でできており、年齢を重ねると体に対する水分の湿る割合が減ってきます。また小児はよく汗をかき、供給される水分は多いのですが、保湿成分である皮脂の分泌が成人よりは少ないため小児はドライスキンになりやすいのです。
男性ホルモン(アンドロジェン)の影響で皮脂が増大し、皮脂産生が増加する思春期までこの傾向が続きます。
特にドライスキンが問題となるアトピー性皮膚炎では、角質細胞間脂質の主成分であるセラミドの量が少ないのです。また、一部のアトピー性皮膚炎ではNMFのもととなるフィラグリン蛋白の遺伝子に異常あることがわかり、注目されています。
皮脂が少ない上に保湿に関わる重要な因子に異常があるため、アトピー性皮膚炎児の皮膚は著明なドライスキンになっています。
ドライスキンでは皮膚のバリア機能が破壊される

 皮膚の表面を覆う角質層は、体内環境と外界を境界するバリア機能を担っています。バリア機能を発揮するためには適度な水分により、なめらかで柔らかい皮膚を保つことが重要です。乾燥しひび割れた角質層は体内からの水分の漏出を許すだけでなく、体内からの水分の漏出を防ぐだけでなく、外界からの異物の侵入を容易にするのです。
従って、ドライスキンは皮膚バリア機能が低下した状態です。病原微生物が侵入すれば炎症を起こします。侵入した異物をアレルゲンとして認識すれば、アレルギー反応を引き起こすことになります。
 アトピー性皮膚炎患者では、喘息などの気道アレルギー疾患の合併が多いのですが、このときのアレルゲン感作の場がドライスキンによりバリア破壊された皮膚なのです。実験的に急激にバリア破壊されると、炎症性サイトカイン産生の亢進、Langerhans細胞機能亢進が起こることから、バリア破壊された皮膚においてはアレルゲン感作が成立しやすい環境になっているのです。
さらにドライスキンによりバリア破壊が生じると、かゆみの知覚神経C繊維の知覚閾値が低下し、軽度の刺激で容易にかゆみを起こしてくるのです。そこを掻けば、バリア破壊を進めることになり、悪循環に陥るのです。
バリア破壊がおこり、アレルゲンが入ることで従来腸管から入り込むといわれていた抗原が皮下に直接入り、皮下の樹状細胞を刺激して食物アレルギーの原因となります。これを予防するためにも皮膚の維持をきちんとしていくことが非常に重要なのです。

スキンケア製品
 白色ワセリン 皮脂膜に代わり保護を目的としています。
 ヒルドイドソフト軟膏 NMFの一種であるヒアルロン酸に類似した化学組成を持つヘパリン類似物質を含んだもの  
文献 66 67

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