甲状腺機能亢進症(バセドウ病) Basedow病
バセドウ病とは首の前面にある甲状腺というところから甲状腺ホルモンが異常にたくさん出てきて、そのため種々の症状が見られる病気です。
原因
自分の体が自分の臓器に対してアレルギー反応を起こす自己免疫疾患と考えられています。免疫学的異常による坑TSH受容体抗体という物質が甲状腺細胞のTSH受容体にTSHよりもさきに結合することによって、甲状腺がびまん性に腫大し、持続的に甲状腺ホルモンが産生されるのです。
遺伝的な傾向があります。思春期の女性に多い病気です。
症状
甲状腺腫:甲状腺が大きく軟らかくはれてきます。
あと眼球突出、頻脈の3主徴のほか,発汗、手がふるえるなどがありますが,成人ほど著明でないようです。小児では感情の動揺がひどくなり,気分がかわりやすい,じっとしていられないなどのため,学校では行儀がわるくなったように誤解されることもあります。普段できていた運動ができなくなったり、そのために不安を感じたり悩んでいたりすることが多いようです。また、食欲があるのに体重がやせてくるということもあります。
診断
超音波エコー、甲状腺シンチグラムでびまん性に大きくなっていることを確認します。
血液検査にて甲状腺ホルモン(FT3、FT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、TRab、TSabなどを測定し、診断を確定します。
治療
小児では薬物療法が主です。
初めはコントロールが難しいので、入院して治療します。甲状腺ホルモンの合成を抑えるために抗甲状腺薬であるメチマゾール(MMI)やプロピルチオウラシル(PTU)の内服を行います。MMIは甲状腺内での抗体産生を抑制し、PTUはT4からT3への脱ヨード化を抑制します。
原因と考えられているTSH受容体抗体を抑制していきます。2年から3年治療を続けることになります。
PTUは小児は重症肝障害やMPO-ANCAに関する血管炎などの重篤な副作用を生じることが多いため第一選択としてはMMIになります。
MMIの副作用では顆粒球減少症があるので量に注意が必要です。重症例ではMMI 15mgに無機ヨウ素、要素カリウムを併用します。
抗甲状腺薬開始後少なくとも2ヶ月は原則2週間で白血球分画を含めた血液検査を行います。
効果がない場合は手術療法や放射線ヨード療法を行うことがあります。
その他
治療中に発熱や発疹が出てきたら治療の変更や中止が必要です。
将来の見通しとしては大部分の人は内服薬で症状がなくなります。
甲状腺ホルモン(T3・T4)
甲状腺ホルモンの作用
甲状腺は基礎代謝の亢進、発育の促進、知能の発達を行う。代謝系に対してはタンパク質合成促進や血糖上昇作用がある。
甲状腺ホルモンは下垂体前葉からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって制御されている。甲状腺ホルモンの濃度が上昇すると、甲状腺刺激ホルモンに作用して負のフィードバックを起こす。
甲状腺ホルモンの合成
サイログロブリンを合成・分泌する濾胞上皮細胞は血中のヨードを取り込み、サイログロブリンのチロシン残基をヨウ素化させる。これは、甲状腺ペルオキシダーゼによって起こる。
T4は甲状腺濾胞細胞から合成分泌されるホルモンで、血液中に分泌されたT4のほとんどは甲状腺ホルモン結合蛋白と結合して存在しているが、遊離の状態にある、F(フリー)T4が細胞内に取り込まれ、脱ヨード反応によってT3に変換される。(一部のFT4は細胞内にとどまってそのまま核内に入って甲状腺ホルモン受容体に結合してホルモン作用を発揮する。)この変換は肝臓や腎臓などの末梢組織で行われ、生成されたT3の一部は再び血中に放出され、一部はそのまま細胞核内の甲状腺ホルモン受容体に結合する。T3は活性型の甲状腺ホルモンであり、生物活性はT4の約5倍である。血液中のT3の約20%は甲状腺から直接分泌されたもので、残りの約80%が肝臓などの末梢組織でT4からの変換によって生成されたものである。血液中のT3も大部分は甲状腺ホルモン結合蛋白と結合しているが、遊離の状態にあるFT3(全体の約0.3%)が標的細胞内に取り込まれてホルモン作用を発揮する。血清中のT3、T4濃度は、血清TBG濃度の影響をうけるため、真の甲状腺機能を知るにはFT3、FT4の測定が適している。
TSH
TSHは下垂体前葉から分泌されるホルモンで、甲状腺を刺激して、甲状腺ホルモンの合成、分泌を促進する。TSHの分泌は視床下部から分泌されるTRHによって促進される。血液中の甲状腺ホルモンが増加すると、下垂体のTSH分泌細胞の機能が抑制されると同時にTRH分泌も抑制されるため、TSH分泌が抑制される。逆に血液中の甲状腺ホルモンが減少すると、TSH分泌が増加する。このネガティブフィードバック機構は非常に鋭敏で、血中甲状腺ホルモンのわずかな増減にも敏感に反応する。 甲状腺自己抗体
抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)
サイログロブリンに対する抗体。
抗サイログロブリンは、甲状腺ホルモンの一種である。アミノ酸のチロシンが2つ縮合し、側鎖の芳香環上に3〜4個のヨード(ヨウ素)が付加したものであるが、チロシンのヨード化は、細胞内の遊離チロシンでは起こらない。濾胞上皮細胞ではサイログロブリン (チログロブリン、thyroglobulin)と呼ばれる巨大な糖蛋白質が合成され、濾胞の内腔にコロイドとして蓄積する。一方、この細胞では血中からヨードを取り込み、これも濾胞内に送り込む。濾胞内ではサイログロブリンを構成するチロシン残基ごとにヨードが1〜2個付加され、ヨード化チロシン残基どうしが2つずつ縮合(エーテル重合)する。サイログロブリンは、濾胞の内腔から再び濾胞上皮細胞に取り込まれ、リソソームで消化を受け、サイログロブリン本体からヨード化されたチロシン残基が切り離される。このうち、ヨードの付加された数が3個か4個のものが甲状腺ホルモンとして血中に放出され、1個または2個のものは、分解され再利用される。甲状腺ホルモンのうち、ヨード付加が3個のものがT3、4個のものがT4である。(http://e840.net より一部参照)
甲状腺機能亢進症で60〜70%、橋本病で30〜50%陽性を示す。
抗マイクロゾーム抗体(抗TPO抗体)
甲状腺濾胞細胞のマイクロゾーム分画に対する抗体。抗原は甲状腺ペルオキシダーゼ。
甲状腺ペルオキシダーゼとは、主として濾胞上皮細胞のマイクロゾーム分画に存在するヘム蛋白で、甲状腺に摂取された無機ヨードイオンの酸化反応を触媒する作用を持つ。測定方法は凝集反応(PA)で、ゼラチン粒子表面にバセドウ病患者の甲状腺組織から分離したTPO抗原を吸着、結合させ対応する抗体との凝集反応を観察する。マイクロゾームテストの各甲状腺自己免疫疾患での陽性率は、橋本病、バセドウ病ともに約90%を示す。サイログロブリン抗体は甲状腺疾患の鑑別診断に、マイクロゾーム抗体は経過と予後の判定に有用である。甲状腺機能亢進症で60〜70%、橋本病で80〜90%陽性となる。(http://e840.net より一部参照)
TSHレセプター抗体
TSH結合阻害抗体(TRAb、TBII TSH binding inhibitor immunoglblins)
TRAbのほとんどはIgGに属し、患者IgGの 125I-TSHの受容体結合に対する抑制を測定するのでTBIIとも呼ばれる。
甲状腺の細胞膜TSH受容体にTSHが結合するのを抑制する抗体。未治療バセドウ病では90%以上検出される。
TRAbにはTSH受容体に対して刺激および抑制の2種類の抗体が存在する。TSAbとTBAbである。
甲状腺刺激抗体(TSAb thyroid stimulating antibodies)
患者IgGが甲状腺細胞を刺激することによって産生されるcAMP増加を指標とし、甲状腺細胞膜上に存在するTSH受容体に対する抗体を検出する方法。バセドウ病で90%以上検出される。
甲状腺刺激阻害抗体(thyroid stimulation blocking antibody:TSBAbまたはTBAb)
甲状腺抑制抗体は抗体そのものには刺激活性がなく、TSH受容体に結合することでTSHの結合を阻害するので結果的に甲状腺機能抑制に働く抗体で甲状腺刺激阻害抗体(thyroid stimulation blocking antibody:TSBAbまたはTBAb)と呼ばれる。 TBG
甲状腺ホルモンは血液中では大部分がタンパク質と結合しており、70%がTBGと結合している。TBGが増加すると甲状腺ホルモンは増加し、TBGが減少すると甲状腺ホルモンは減少する。しかし、現在FT4、FT3が測定されるようになったので、あまり臨床的な意義がなくなった。THSが正常な場合にT3,T4が異常値を示す場合に意味がある。
サイログロブリン
甲状腺濾胞内で合成され、蓄えられる糖タンパク質で甲状腺ホルモンの合成にとって必須のタンパク質である。臨床的意義は少ない。
甲状腺からのそれ以外のホルモン
カルシトニン カルシトニンは甲状腺の傍濾胞細胞から分泌されるホルモンであり、血漿カルシウムの濃度低下に関わっている。
この作用は尿細管でのカルシウム・リン酸の再吸収の抑制、血中へのカルシウム・リン酸の遊離抑制などによって起こる。
(「もっと詳しく」は 文献43 45より)