yoku 夜尿症

夜尿症の治療


 夜尿症(遺尿症)は5歳以上の子どもがその治療の適応になります。昼間にオシッコを漏らすのは昼間遺尿といい、これに含まれます。タイプは次のようなものがあります。

 1)低浸透圧性多量遺尿型(未熟でホルモン量が少ないためオシッコが多くでる)
     1回夜尿量 10歳未満:100ml以上  10歳以上:150ml以上
    夜間尿量 8歳未満:180ml以上   10歳未満:200ml以上  10歳以上 250ml以上
 2)膀胱機能未熟型(未熟なため膀胱にオシッコが多くためることができない)
    1回夜尿量と夜間尿量が上記基準値未満の場合
 3)混合型 
    多尿型と混合型の合併した夜尿型で、1回夜尿量が上記基準値未満で、夜間尿量が上記基準値以上の場合
 ※慢性の便秘が原因になっている場合があるので、その治療で昼間尿失禁や夜尿が改善することもあります。
 ※小学校入学以降に一般的に治療を始めます。夕食後はコップ1杯程度の飲水に制限し、就寝前に必ず排尿を済ませることを励行することで約1割の子どもたちが夜尿が改善します。

【治療】
まず検尿をして尿に異常がないか確かめ、比重や浸透圧、尿量、がまん尿あるいは起床時尿量の最大値、夜間尿量などを計って、上記のタイプのどれかを決めます。そしてそのタイプにあった薬剤を使って治療を始めます。
お薬は基本的には三環系抗うつ剤を使用します。三環系抗うつ剤は抗利尿ホルモンの分泌刺激作用があり、軽度〜中等度の夜尿には効果があります。
1)ではまず抗利尿ホルモン ミニリンメルトを内服します。
 抗利尿ホルモン
   抗利尿ホルモン製剤である酢酸デスモプレシン(DDAVP)という薬を使用します。
   内服薬(ミニリンメルト) 120、240μgの錠剤を使用できます。
   効果はよく、かなり期待できます。最初は120μgを使用し、効果が見られないときは増加します。    

  副作用
    水中毒症状が起ることがあります。摂取水分コントロールなどがきちんとできていないと水が多すぎる状態になり、浮腫、頭痛、極端な場合はけいれんといった症状が出てくることがあります。
     以前は鼻粘膜から少量の酢酸デスモプレシンという薬を吸収させるものでしたが、この副作用は出にくくなっています。けいれんが重要な問題でした。
 三環系抗うつ剤
   効果が良くなければ、経過を見ながら三還系抗うつ剤を使用します。
   精神の安定、睡眠深度の浅化、膀胱括約筋の緊張を促す目的で三環系抗うつ剤(クロミプラミン(アナフラニール)、イミプラミン(トフラニール)、アミトリプチン(トリプタノール)を使用します。
    トフラニール 学童 1日量30〜50mg を1〜2回投与。アナフラニール 学童 1日量30〜50mg を1〜2回投与。
    副作用は食欲不振、悪心、嘔吐などの消化器症状と不眠などです。その他、口渇、めまい、ふらつき、立ちくらみ、眠気、イライラなどがあります。非常にまれですが、悪性症候群がみられることがあります。注意が必要です。      

2)では機能的膀胱容量を拡大する目的で、尿失禁治療薬(抗コリン剤:パップフォーポラキスプロバンサイン)などを使用します。
   副作用は成人に対しては口渇、眼が乾く、排尿困難などがありますが、小児ではほとんど出ることはありません。  

3)混合型
     このタイプが多いので三環系抗うつ剤や抗コリン剤をはじめに使ってみます。効果をみて対応していきます。

お薬の中止
効果のある場合は3から6ヶ月使用して、中止してゆきます。効果のない場合は変更してゆきます。少しうまくいったからと途中で勝手に薬をやめないことが大切です。

【生活指導】
1)飲水量のコントロール
   朝から昼間での間に水分を十分取り、午後から夜間までの間は水分制限をきちんとしましょう。このとき厳しくしすぎないで、本人にまかせます。
   夕食には水分や塩分を控えめにしましょう。できれば家族全体で行うと、家族の健康管理もできます。

2)夜間に無理に起こしてオシッコをさせないようにしましょう。
   夜間に無理に起こしてオシッコをさせるのは、ちゃんと目覚めていなければ夜尿をしているのと同じです。 より治りにくくなり、また抗利尿ホルモンの分泌低下を引き起こし夜間多尿の原因になってしまいます。   

3)排尿抑制訓練をしてみましょう。
   膀胱未熟型では排尿抑制訓練を行います。
これはオシッコの途中で止めたり、昼間のオシッコをできるだけがまんさせる訓練です。今までより少しづつ長い時間がまんさせるようにします。
1日1回排尿量を記録させ(昼間1回最大排尿量)、この記録の向上がこどもの励みになります。

4)冷え症状に注意
 冷え症状は夜尿症を悪化させやすいので、冷え症状を伴う場合には就寝前にゆっくり入浴させ、入浴剤(炭酸系が効果があるといわれている)を使用したり、寒い時期には布団などを暖めておけば良い結果が得られることがあります。
5)オシッコシール
   オシッコシールを自分で貼らせ、うまくいったらきちんとほめてやり、これは自分の力でうまくできたんだと自信を持たせましょう。連続でできることが重要で、1回失敗すると不安になり、連続して失敗する傾向があります。

6)夜尿アラーム療法
  海外では治療の第1選択として用いられています。
尿をセンサーで感知させ、ブザーで知らせる方法です。長く使うことで睡眠時膀胱容量が増大し、効果が出ると考えられています。
  私はこの方法は起こすのと同じなので、今のところは採用していません。しかし、なかなか効果が出にくい患者さんには使用しています。
  3カ月間の使用で、62-78%の効果があるといわれています。アラーム療法により夜間の膀胱容量が増え、夜尿の頻度や1回尿量が減少してくるようです。
  夜尿が朝方まで持つようになり、やがて治癒してくる傾向があります。
  夜尿アラームに即効性はありません。使用期間は3カ月以上が必要です。始めたら途中で中断しないようにしましょう。3カ月未満の使用や断続的な使用では効果が上がらず、効果判定もできません。 パンツや専用パッドにセンサーをセットします。夜尿をすると、音、光、バイブレーションなどによるアラームが出ます。
  夜間アラームが鳴ると本人だけでなく家族も一緒に目を覚ますことがありますので家族全員の理解と協力が必要となります。
  

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   ※アラーム療法の注意点
 (1)アラームが鳴ったら直ぐに本人を起こしてください。夜尿症児は自分で起きることができないので、家族が起こしてあげてください。
 (2)排尿がなくアラームが鳴らない時点で起こしてはいけません。
 ※アラームはインターネットで買うことができます。
   (株)アワジテック「ピスコール」が無線タイプなので、使用しやすいようです。その分値段も少し高いです。
   ピスコールは、専用トレーニングパッド、送信機、受信機から成り立っています。警報はアラーム音、ランプ点滅、バイブレーション(振動)の3つがあります。

最終的には夜尿はほとんどの子どもが治ってゆきます。1年に15%ずつ減ってきます。
"起こさない、しからない、あせらない" が大切な三原則です。


尿失禁治療薬(膀胱機能型夜尿症に対する第一選択のお薬ですが、夜尿症の保険適応になっていません。)
 パップフォー(塩酸プポピベリン) 抗コリン薬 平滑筋直接作用および抗コリン作用を有し、主に平滑筋直接作用による排尿運動抑制作用を示すと考えられています。 
  適応 尿失禁、神経因性膀胱、神経性頻尿、不安定膀胱、膀胱刺激状態など。
 ポラキス(塩酸オキシブチニン) 抗コリン薬 膀胱運動亢進を抑制 膀胱平滑筋直接作用による排尿運動抑制作用
   適応 頻尿、尿意切迫感、尿失禁、神経因性膀胱、神経性頻尿、不安定膀胱(無抑制収縮を伴う過緊張性膀胱状態)など。
   錠剤 1 2 3mg  1回2〜3mg 1日3回 適宜変更
   ◎抗コリン作用にもとづき、膀胱を収縮させる副交感神経をおさえ、またCa拮抗作用により膀胱の平滑筋を直接ゆるめます。
    これらの作用により尿がためやすくなり、また膀胱のむやみな収縮がおさえられます。
    そのような作用から、いろいろな病気が原因の頻尿や尿意切迫感、尿失禁の治療に用いられます。
 プロバンサイン(プロバンテリン) 抗コリン薬 膀胱運動亢進を抑制 膀胱平滑筋直接作用による排尿運動抑制作用
    三環系抗うつ剤と併用すると抗コリン作用が強まり要注意。1回15mg 
   ◎抗コリン作用により消化管の収縮運動を抑え、自律神経節遮断作用により筋緊張を緩め、夜尿や多汗を改善します。
   通常、胃・十二指腸潰瘍、胃酸過多症、幽門痙攣、胃炎、腸炎、過敏大腸症(イリタブルコロン)、膵炎、胆道ジスキネジー、夜尿症または遺尿症、
   多汗症などの治療に用いられます。
   使用上の注意 かゆみ、発疹などのアレルギー症状、閉塞隅角緑内障、前立腺肥大による排尿障害、心疾患、麻痺性イレウス、甲状腺機能亢進症、
   うっ血性心不全、不整脈、潰瘍性大腸炎など。

※抗コリン作用(こうコリンさよう)とは、アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する作用のことである。胃腸薬などの抗コリン薬の主な作用である。便秘、口の渇き、胃部不快感等といった神経症状の副作用は代表的な症状の例である。 抗コリン作用を持つ他の薬剤には、コリン作動性の抗パーキンソン病薬やベンゾジアゼピン、一部の抗精神病薬や抗うつ薬や、また第一世代抗ヒスタミン薬を含有する総合感冒薬、鼻炎薬などがある。 抗コリン薬を除いた、このような他の薬剤においては、本来必要ではない抗コリン作用が生じないように改良されている場合も多い。 抗コリン作用は、緑内障、前立腺肥大症に対しては悪化させる可能性があるため、医薬品添付文書にて禁忌や使用上の注意が記載されている。

※日中に尿失禁や便失禁がある場合、(ADHD)の可能性があるかもしれません。ADHDのこどもはなにかに夢中になるあまり、尿意や便意に反応がなくなっている可能性があります。ADHDの治療を先行することで排泄の問題が解消する可能性があります。
尿は便を失禁してしまった際、叱るのは逆効果です。うまくいったとことを褒めたりささやかなご褒美を与えたりするのも効果があります。(順天堂大学 小児科教授 大友義之先生より)

院長通信
 週1回程度の成功率の子は薬の効果が出やすいです。全く成功がない子はなかなか苦労することが多いです。膀胱型の薬物療法はポラキス、バップフォーともに効果が今ひとつな感じです。
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