片頭痛
概念と疫学
片頭痛は素因のある患者になんらかの刺激が加わり発作性頭痛を発症する疾患です。原因疾患のない一次性頭痛のうち主なものは片頭痛と緊張型頭痛ですが,片頭痛は小児でも生活支障度が高いため外来受診の多い頭痛です。 『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』によると,小児の片頭痛の有病率は,世界各国の人口統計基盤の調査で3.8〜13.5‰学校基盤の調査で1.7〜21.3%であり、わが国では中学生で4.8%,高校生で]5.6%です。
最近のGotoらのわが国の報告では,片頭痛は小学生で3.5%,中学生で5.0%でした。片頭痛の有病率の性差をみると,就学前は男児が女児より多く,小学生では男女ほぼ同数,思春期以降は女児に多くなり、成人女性と同様月経との関連が示唆さています。
病態生理
片頭痛の発症機序はまだ完全には解明されていませんが、有力なのは三叉神経血管説と神経説です。片頭痛の前兆は皮質拡延性抑制という電気活動抑制帯が皮質を伝播する現象で説明されています。また,片頭痛発症前にみられる予兆の疲労感,あくびなどの視床下部や視床の機能異常も神経説を支持しています。
一方,皮質拡延性抑制が三叉神経を刺激して,カルシトニン遺伝子関連ペプチドやサブスタンスPなどの神経ペプチドを放出し,神経原性炎症を惹起し頭痛発作を起こすというのが三叉神経血管説です。
症状
片頭痛発作の頻度は,ふつう多くても月4回程度です。誘因として,低気圧,寝不足,眩しい光,ストレスからの解放、チョコレートやチーズなど特定の食物,空腹,思春期女児の月経が挙げられていますが、誘因が不明のことも多いです。
片頭痛発作は時間経過で症状が変化し推移します。すなわち最初に予兆があり,前兆がある場合は予兆に続き前兆が発現,その後徐々に頭痛が始まります。
小児の予兆は疲労感,気分変調,首こり、あくびが多いです。片頭痛は強い頭痛で、悪心・嘔吐,光過敏・音過敏を伴うことも多く重症感はありますが,頭痛の治療薬は有効のことが多く,一晩眠ると翌朝には軽減し登校するため欠席が長引きません。
ただし,月経関運片頭痛は持続時間が長く,治療に抵抗することもあります。
Monasteroらによる小児片頭痛の10年後の予後報告では,41.8%で片頭痛が持続,38.2%で寛解,20%は緊張型頭痛に変わっていて,片頭痛の家族歴が片頭痛持続の要因と推定されたといわれています。
診断
頭痛は自覚症状であるため,初診時に問診票を活用し,情報をうまく聞き出すことが正しい診断につながります。初診時に診断ができない場合もあり,頭痛ダイアリーによる経過観察も大切です。
小児の片頭痛も成人と同じく,「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)」で診断します。
ICHD-3によると,18歳未満では,頭痛の持続時間が2〜72時間(成人は4〜72時間),片側性でなく両側性でもよいとされますが,後頭部でなく前頭側頭部です。
痛みは中等度から重度の拍動性頭痛(脈打つ頭痛)で,日常的な動作により増悪します。悪心または嘔吐(あるいはその両方),光過敏および音過敏のうち1項目を認めることも診断に必要です(表1)。
片頭痛発作時に静かな暗い部屋で寝ていたい,という訴えから光過敏・音過敏があると推測されます。
ICHD-3に合まれないが,匂い過敏はよくある片頭痛の症状です。また,片頭痛は家族集積性が強い疾患で,とくに母親の片頭痛罹患率が高いことも診断に役立ちます。
小児にも前兆のある片頭痛があり,前兆は完全可逆性で前兆の60分以内に頭痛が発現します。このうち,小児でよくみられるのは典型的前兆を伴う片頭痛で,前兆は視覚症状,感覚症状,言語症状からなっています。
片頭痛の分類には,片頭痛に関連する局期性症候群として周期性嘔吐症候群,腹部片頭痛なども合まれます。
表1
前兆のない診断基準(ICHO-3:1.1)
A. B〜Dを満たす発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は4〜72時間
(未治療もしくは治療が無効の場合)
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
1.片側性
2.拍動性
3.中等度から重度の頭痛
4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する,あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
1. 悪心または嘔吐(あるいはその両方)
2.光過敏および音過敏
E.ほかに最適なICHD-3の診断がない
※小児あるいは青年(18歳未満)では,持続時間は,2〜72時間としてよいかもしれない。 ※18歳未満では両側性であることが多い(通常,前頭側頭部)。 治療
@非薬物治療:患児自身と周囲の大人が片頭痛を正しく理解し,誘因があれば避けることが非薬物治療の第一歩です。小児では過眠より睡眠不足が問題で,睡眠を十分取ることで頭痛の頻度は明らかに減ります。
特定の食物が誘因の場合は避けるほか,給食前の頭痛発症は空腹が関連しているので朝食を十分摂るよう指導をしています。ゲームやスマートフォンなどの制限も規則正しい生活を取り戻すために必要です。
A薬物治療:『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』には,エビデンスに基づく小児の片頭痛治療薬が記載されています。
B急性期治療(表2):第一選択薬はイブプロフェンとアセトアミノフェンで,効果的で安全,かつ経済的な薬剤です。頭痛が始まったらできるだけ早く使用し,補助的処置として,静かな暗い部屋での休息が推奨されています。
このため日本頭痛協会のホームページを通じて,担任・養護教諭への啓発活動を行っています。鎮痛薬が無効の場合はトリプタン製剤の使用も可能です。
スマトリプタン点鼻薬はエビデンスがあり,とくに嘔吐を伴う片頭痛には有効である。錠剤ではリザトリプタン錠が有効かつ安全ですが,ゾルミトリプタン錠,スマトリプタン錠,エレトリプタン錠,ナラトリプタン錠も有効例は多く安全で,1錠(12歳以下では0.5錠)を試してみます。
ドンペリドンなどの制吐薬は急性期治療薬の併用薬として有効である。
C予防治療薬(表2):急性期治療薬を月10日以上使用,あるいは回数が少なくても頭痛発作に毎回嘔吐を伴う場合は予防薬を考慮します。
予防治療の目的は,片頭痛発作の頻度と強さを軽減することで。2か月以上は予防薬を継続し評価します。
よく使われているのはアミトリプチリン,シプロヘプタジン,塩酸ロメリジン,バルプロ酸です。バルプロ酸は片頭痛の予防薬として保険適用がありますが,使用前後の肝機能やアンモニアを含む血液検査が必要です。
トピラマートは小児片頭痛の予防薬としてエピデンスはあるが,わが国では保険適用がありません。プロプラノロールは喘息患者,およびリザトリプタンとの併用が禁忌です。漢方薬(呉栗莫湯,五苓散)も小児片頭痛の予防薬として有効例があります。
これらの薬剤は小児片頭痛では適応外使用となりますが,愚見と保護者へ説明と同意のうえ使用し,とくに問題は生じていません。
治療の評価治療効果がみられない場合,頭痛の診断の再評価が必要です。特に思春期では心理社会的要因関与の緊張性頭痛が片頭痛に共存し、学校欠席が続く難治な頭痛となることがあります。 表2 小児片頭痛の治療
1.非薬物治療
片頭痛の正しい知識を患児,家族,担任・養護教諭が共有する。睡眠,食事時間など規則正しい生活。誘因の回避などを指導する。
頭痛発作時は暗い静かな部屋で安静にする。
2.薬物治療
1)急性期治療薬
・鐘痛薬
イブブロフェン(プルフェンなど) アセトアミノフェン(カロナールなど)
・トリプタン製剤
スマトリブタン(イミグラン:点鼻・錠剤・皮下注) リザトリブタン(マクサルド:錠剤・口腔内崩壊錠)
ソルミトリプタン(ソーミッグ゜:錠剤・口腔内達溶錠) エレトリプタン(レルバックズ:錠剤)
ナラトリブタン(アマージ゜:錠剤)
・制吐薬
ドンペリドン(ナウゼリン),メトクロプラミド(プリンペラン)
2)予防薬
・抗うつ薬:アミトリプチリン(トリブタノール)
・枝ヒスタミン薬:シブロヘプタジン(ペリアクチン)
・枝てんかん薬:バルブロ酸(デバケン,セレニカ)
☆トピラマート(トピナ)はエビデンスはあるが,保険適用はない
・カルシウム拮抗薬:塩酸ロメリジン(ミグシス)
・β遮断薬:プロプラノロール(インデラル)(喘息患者,リザトリブタン併用禁忌)
・漢方薬(呉しゅうゆ湯,五苓散)
※小児片頭痛に封し,適応外使用を含む。
※トリプタン製剤は脳の血管を収縮させ、また神経からの痛み物質の伝達を抑制し、片頭痛が起こる2つの仕組みの両方に働きかけます。
トリプタン製剤は片頭痛発作が起きてすぐに使用することで最も高い効果が得られます。片頭痛が起きてしばらくした後の我慢できなくなってからではトリプタン製剤の効果が十分に発揮されないので使用するタイミングが肝心です。
トリプタン製剤を含め、片頭痛の治療で薬を使うときに注意するべき点として、処方された用量や回数を守らず誤った使い方をすることによって、薬が原因でかえって頭痛を誘発してしまう可能性があります。薬物乱用頭痛と呼ばれる頭痛です。
トリプタン製剤は処方医や薬剤師の話をよく聞いた上で指示された用法・用量を守って使いましょう。 ※トリプタン製剤を使用するときには頭が締め付けられるという感じを持つ方がおられます。この場合は使えないですね。
(文献 68)