百日咳
百日咳は百日咳菌(Bordetella pertusis)が感染して起こる病気です。潜伏期は6〜20日くらいです。普通は7日ほどです。カタル期(軽度の感冒症状)と咳が出現して2週間以内がもっとも感染力が強いです。3週間を過ぎると感染力はほとんどなくなります。感染力は大変強く、咳による飛沫で感染します。最初のうちは普通のかぜと変わりません(カタル期)が、1〜2週間がすぎるとだんだんと激しい咳に変わってきます。顔を真っ赤にして、激しくせき込むようになります(痙咳期)。熱は出ず、機嫌も悪くなりません。特に夜に咳が激しいのが特徴です。
母親からの移行抗体が十分に働かないため、2ヶ月未満の赤ちゃんにも感染します。生後6ヶ月以内の赤ちゃんには大変怖い病気で、咳のため息ができなくなり、チアノーゼという顔色が紫になることもあります。この場合はすぐに入院して治療する必要があります。
脳症という合併症を起こして死亡することもあります。
また、最近では年長児と成人の百日咳が発生するようになりました。DPTワクチンをしていても抗体が下がってしまって感染するのです。アメリカでは10歳を超える百日咳が増加して問題になっています。さらに百日咳は自然感染しても終生免疫が得られないため、一度かかった人でもまたかかることがあります。 症状は乳幼児に比べると典型的でないので、感染源として問題になります。ワクチン接種歴のある人は無治療であれば咳が始まってから2週間あるいはそれ以上の期間感染性を有すると言われています。★
長引く咳などがある年長児や成人などの早期診断、早期治療が必要です。
症状
最初は鼻汁、くしゃみ、咳が出ます。次第に咳がひどくなり、特に夜間に激しい咳をするようになり、咳込み最後に痰を出します。
続けて咳き込んだ後、咳の終わり頃にヒューッと空気を吸い込む音(Whoop)が聞こえます。
2〜5週間続き、次第に咳は軽くなります。無治療だと3ヶ月間ほど咳が続きます。
1歳以下特に6ヶ月以下ではあまり咳をせず、コンコンといった後に急速に顔色が悪くなることがあり、この場合は危険です。 診断
典型的な咳があると、すぐに診断できますが、典型的な咳は1週間以後になりますので、最初のうちは難しいものです。
血液の中の白血球数が多くなり、リンパ球が非常に増えます。これも初期には見られません。
血液中の抗体の検査を行ないます。※
年長児や成人では典型的な咳や咳込みの終わり頃にヒューッと吸い込む音(Whoop)がありませんので診断は難しいです。
また年長児、成人ではリンパ球増多を伴う白血球の増多はありません。 治療
百日咳菌に効く抗生物質(マクロライド系)を使います。早めに飲まないと効きめがよくありません。2週間ほど使用します。その他激しい咳を抑えるための咳止めを使います。
乳幼児の無呼吸を伴うものは入院治療が必要です。
マクロライド系抗生物質5日投与でのどや鼻から菌はいなくなります。
予後
一般にそのまま良くなりますが、肺炎(22%)や脳症(0.5%)を合併して重症化することがあります。6ヶ月以下では脳症のために死亡することがあります。
家庭での注意
風呂:咳が軽くなれば入れてやります。
食べ物:消化のよいもの。刺激のあまり強くないものを与えます。
咳の刺激になる、たばこ、冷たい空気、ほこり等を避けます。
風邪を引くとまた、咳がひどくなるので、かぜを引かないようにします。 保育園・幼稚園・学校
百日咳特有の咳がとれるまでは休ませることになっていますが、治療開始から5日で菌はいなくなるので、それを考慮して行くことができると思います。
予防
◎三種混合(DPT)ワクチンが有効です。
定期接種です。赤ちゃんには大変危険な病気ですので、早めにワクチンをしましょう。
特に早くから保育園などに入れる赤ちゃんにはできるだけ早く受けさせておいてください。(生後3ヶ月から) 年長児、成人の場合は治療、予防としてエリスロマイシン2週間、クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)1週間、アジスロマイシン(ジスロマック)5日間など投与します。
その他の注意
@咳がひどく、息が止まりそうになり、チアノーゼが出るときにはすぐに病院を受診しましょう。
A熱が高く出るときも受診しましょう。
B百日咳は最初のうちは診断が難しいので、保育園などで発生すると、なかなか感染を防ぐことができません。かぜと思って安心していると困ったことになります。
C咳がひどく長引くときには百日咳の検査が必要です。上記で述べましたが、大人や年長児で感染源になることがあります。この年齢の方でも咳が10週以上持続します。
実際にかなり咳の長い年長児がいる場合は真剣に対応してください。ただ咳が長いだけと放置していると赤ちゃんうつってしまうというやっかいなことが起こりますので、きちんと検査を受け治療しましょう。 ※百日咳凝集素価の上昇 流行株(山口・小林株)の上昇、ちなみに前野・東浜株はワクチン株であるが、感染で交叉性に上昇することがある。10倍以上で陽性。回復期には40〜80倍になる。
抗百日咳抗体価(ELISA法)抗FHA−IgG、抗PT−IgG抗体は痙咳期に入ると1〜2週で上昇する。(100EU/ml以上)など。PTはB.pertusisに特異的であるため抗PT−IgG抗体の上昇が必須である。ペア血清で抗PT−IgG抗体、抗FHA抗体値の2倍以上の上昇、単一血清で10EU/ml以上を有意とする。
(FHA:繊維状赤血球凝集素 PT::百日咳毒素)
抗FHA抗体はパラ百日咳感染でも上昇する。
ワクチン接種者
咳が特徴的ではありません。長く続く咳、発作性に出る咳、夜中に眠れないほどの咳など色々な咳込みの仕方のようです。白血球やリンパ球の増加もありません。
※血清学的診断
百日咳凝集素価の上昇(ペア血清で4倍以上か山口株40倍以上)
抗百日咳抗体価(ELISA法)抗FHA−IgG、抗PT−IgG抗体。PTはB.pertusisに特異的であるため抗PT−IgG抗体の上昇が必須である。ペア血清で抗PT−IgG抗体、抗FHA抗体値の2倍以上の上昇、単一血清で100EU/ml以上を有意とする。
最近2年間以内に予防接種を受けていない場合は百日咳毒素(PT)に対する抗体(抗PT−IgG抗体)の上昇が単一でも認められれば最近の百日咳の感染を示唆する。
医療従事者など感染源の可能性がある成人に対して
CDC百日咳流行を予防するため、小児と接触する成人に対する場合と、11〜12歳時に百日咳を含むTdap(破傷風トキソイド、減弱ジフテリアトキソイド、無細胞百日咳ワクチン)を1回接種し、10年ごとにTdap接種を推奨しています。Tdapはジフテリアの抗原量を減らした思春期からのDPTワクチンのこと。(国内輸入はしていない)
1981年より使用されているDPTはDTaPといい、ジフテリア、破傷風トキソイド、無細胞百日咳混合ワクチンです。全細胞が含まれている百日咳ワクチンは副反応が強く中止になりました。
無細胞百日咳混合ワクチンはアルミニウム塩を含有するため筋肉注射として接種します。
長引く咳の多の病原体
パラ百日咳菌、肺炎マイコプラズマ、クラミジアトラコマティス、クラミジアニューモニア、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、