肺炎球菌性肺炎


 かつて小児の細菌性肺炎のなかでは肺炎球菌によるものが最も多いものでした。市中肺炎の代表疾患とされています。
 冬から早春にかけて起こり,4歳以下の乳幼児に多くみられます。年長児,成人では大葉性肺炎の形をとるものが多いのに対し,乳幼児では気管支肺炎の形をとります。
 肺炎球菌は小児の鼻咽喉に高率に存在する常在菌で、肺炎、中耳炎、髄膜炎、敗血症など様々な細菌感染の主要な原因菌です。菌体が鼻咽喉に定着した後、血液中に入り全身に伝搬する侵襲性感染症と直接気道に侵入し、感染を起こす局所感染に分かれます。
 肺炎球菌はグラム陽性双球菌で、外殻に病原性の主体となる莢膜を持っています。莢膜が白血球の貪食作用を妨げるため、強毒性を発揮し、重症化しやすいと考えられています。この莢膜の抗原性の違いにより、肺炎球菌の血清型は90種類以上に分類されています。
 このうち小児の侵襲性感染症から高頻度に分離されている7種類の血清型を対象に開発されたのが、沈降7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)です。
 肺炎は局所感染に入ります。

症状
 乳児では軽度の上気道感染症状があり,食欲が減退し,急に高熱を発して 不穏状態となり,多呼吸,陥没呼吸となります。
 進行すれば鼻翼呼吸,呻吟,チアーゼがみられます。胸部所見は意外に少なく,聴診上呼吸音は減弱,水泡性ラ音を聴取しますが,いつもあるとは限りません。
 年長児になると,成人の肺炎に類似してきます。短時間の上気道炎の後に突然高熱を発し,倦怠態とともに呼吸促迫,咳瞰,口唇チアノーゼがみられるようになります。

診断
 X線所見は乳児では小斑点,斑紋状に散在する陰影が多く,年長児では1ないし数個の大葉性,肺区域性陰影が多くみられます。
 喀痰が望ましいですが、不可能な場合には後鼻腔検体を採取します。肺炎球菌は常在菌として気道に存在する可能性があります。小児では鼻咽喉保菌で陽性になる可能性があります。
 侵襲性肺炎球菌感染症の場合には尿中肺炎球菌抗原検査が補助診断として有用です。

 市中肺炎の目安
  1.重症度分類で中等症以上
  2.1歳未満
  3.治療薬の内服ができない
  4.経口治療薬で改善が認められない
  5.基礎疾患がある
  6.脱水がある
  7.軽症でも主治医が入院が必要と考えた場合
     

小児市中肺炎重症度分類
軽症中等症重症
全身状態良好不良不良
経口摂取可能不良不可能
SpO2低下なし(96%以上)90-95%90%以下
呼吸数正常異常異常
無呼吸なしなしあり
努力呼吸
(呻吟・鼻翼呼吸・陥没呼吸)
なしありあり
循環不全なしなしあり
意識障害なしなしあり

年齢別呼吸数(回/分) 新生児<60 乳児<50 学童<40
中等症・重症においては1項目でも該当すれば、中等症・重症と診断する
    

合併症
   膿胸が最も多く,中耳炎,髄膜炎などがみられます。  

治療
 安静,保温,栄養,水分の補給に注意し肺炎菌に有効な抗生物質を用います。外来で治療可能な内服抗菌薬ではPSSP(ペニシリン感受性肺炎球菌)PISP(ペニシリン中等度耐性肺炎球菌)に対してはアモキシシリン(AMPC)が推奨されています。
 PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)が問題となっており,これに対してはペネム系抗菌薬のファロペネム(FRPM)やカルバペネム系抗菌薬のデビペネム(TBPM-PI)が推奨されています。
 治療開始後2〜3日で有効性を判断し、無効であれば診断の妥当性や薬剤の特性を考慮して抗菌薬を変更します。
 市中肺炎の重症度分類で中等症、重症には入院治療を行います。

 ※肺炎球菌に対する経口βラクタム系抗菌薬のMIC90を見ると、PISPとPRSPを含めて肺炎球菌に対して最も高い抗菌活性を示しているのが、ペネム系抗菌薬のファロペネム(FRPM)です。
 つづいてセフジトレン(CDTR)、セフカペン(CFPN)セフテラム(CFTM)などセフェム系抗菌薬の抗菌活性が高いようでした。

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 ※ファロペネム:ファロム錠150mg/ファロム錠200mg ファロムドライシロップ小児用10%
 ※デビペネムピボキシル(TBPM-PI):オラペネム小児用細粒  

予後
 抗生物質療法が普及する以前は,乳児期の本症は予後不良でしたが,最近では予後は著しく改善されました。

ワクチンについて
 ★小児の肺炎球菌ワクチンは2013年4月より定期接種になり、2013年11月からPCV7からPCV13に切り替えられた。重症の肺炎球菌感染症は非常に減少し、肺炎・中耳炎も減少してきたという報告があります。  

(文献 42、 尾内一信・他監 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017,協和企画、2017) 

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