クル病


 クル病とは、骨基質の石灰化が障害され、類骨が増加した状態を言います。骨端軟骨部では石灰化されない類骨が横方向に拡大するため、骨X線検査でも特徴のある変化が見られるようになります。特徴的なビタミンD代謝異常症やリン利用を伴う疾患などいろいろな病態によって起こってきます。
石灰化不全はカルシウムやリンの低下によって起こり低カルシウム血症を主体としたクル病はいくつかの種類がありますが、ほとんどがビタミンD欠乏性のクル病です。

種類
ビタミンD欠乏性クル病

ビタミンD依存性クル病
 T型
   1α水酸化酵素遺伝子異常によって活性型ビタミンD合成障害によって起こります。
 U型
   ビタミンD受容体の遺伝子異常によって活性型ビタミンDの作用不全によって起こります。
 いずれもビタミンD作用不足により血中カルシウムが低下し、2次性副甲状腺機能亢進によりリンも低下するためクル病となります。
 この二つはいずれも常染色体劣性遺伝をとるまれな疾患です。

低リン血性(ビタミンD抵抗性)クル病
  遺伝性クル病のうちもっとも頻度が高い疾患でX連鎖性の優性遺伝を示し、男女ともに発症、腎尿細管におけるリン再吸収低下による低リン血症、ビタミンD代謝障害、クル病、、骨軟化症、成長障害を来す疾患です。

ビタミンDについて
ビタミンDは紫外線より皮膚で活性化されるか、食品から摂取されます。これらのビタミンDは肝臓や腎臓で水酸化され、活性型となり、腎臓や骨、腸管に働いて血液中のカルシウムを上昇させます。

ビタミンD欠乏性クル病について
最も頻度が高く、近年、この疾患は増加しています。

ビタミンD欠乏の原因は
@日光浴不足(日光によって皮膚でビタミンDが合成される。)
A母乳栄養かつ母親が潜在的なビタミンD欠乏(母乳中のビタミンD含有量は少なく、現在アメリカではすべての母乳栄養児にビタミンD補給を推奨しています。)
Bアレルギー疾患などでの極端な食事制限
Cその他 未熟児、消化管切除後の吸収障害、肝胆道疾患などにより起こります。 などが考えられ、これらが単独、複合してビタミンD欠乏が起きてきます。
※完全母乳栄養と人工・混合栄養で育てられた正常な新生児1120人を対象に、血中ビタミンD量の指標となる血清25−ヒドロキシビタミンD(25{OH}D濃度を測定すると人工・混合栄養 児は正常範囲だったが、完全母乳栄養児の59.9%は正常値を下回りました。25(OH)D濃度の推奨値は20mg/dl以上。

症状
骨、歯の異常。
歩き始めると重力のために変形しO脚になってきます。肋骨の一部が数珠のようになる(肋骨念珠)ことがあります。
骨X線検査でカップのように見える杯状陥凹(cupping)、骨端部片縁の不整(fraying)、骨端が広がって毛羽立ったような所見が見られます。
また、大泉門の閉鎖が遅れたり、胸郭変形、歯牙萌出遅延やエナメル質の形成不全を認めます。
頭の骨がぺこぺこへこむ頭蓋癆(とうがいろう)が見られることもあります。

骨外症状
けいれん、テタニーまれに心筋症を見ることがあります。けいれんを認めることがあります。

治療
生理量の活性型ビタミンDを投与します。※(日本では欧米で使われている天然型ビタミンD製剤が市販されていないため)
尿中のカルシウム排泄量、血液検査、臨床症状などを参考にして投与量を決めます。長期間投与することも多く、投与量の下限は簡単ではありません。

適切に治療を行えば予後は良好です。

乳製品以外にビタミンDを多く含む食品として魚類、キノコ類(生シイタケより干しシイタケ)、卵類など。
穀物、野菜、果物、豆類にはビタミンDはほとんど含まれていません。

外出や日光浴が必要です。現在のお母さん方はあまりにも紫外線を怖がって日に当てないと、ビタミンD欠乏症の危険が出てきます。
赤ちゃんの頭蓋癆は妊娠中の母親の日光の量と関係があるのではないかといわれています。
発症児は極端な食生活の偏りや日光浴の回避がないか注意が必要です。
つまり、妊娠中に日光に当たることが少ないと、あかちゃんがビタミンD不足になる可能性が示唆されています。
冬は1時間、夏は数分から10分程度の日光浴が必要とされています。

◎当院では食物アレルギー、アトピー性皮膚炎で食事制限の指導をすることが多いですが、あまり厳しい制限はしておりません。お母さんの判断で厳しい食事制限をするのは決して良くありませんのでしっかりご相談下さい。

補) ※ 1α(OH)D3(0.01〜0.05μg/kg/日)(アルファロール、ワンアルファ)を投与します。治療が有効であれば血清ALPが2〜4週で低下し、血中カルシウムが増加,PTHが2〜3ヶ月で低下し、骨X線所見は半年以内に改善します。維持量は1α(OH)D3を 0.01〜0.03μg/kg/日とします。活性型のビタミンDは効果は高く、天然型に比べると500倍〜1000倍ほど高い効果が得られますが、乳幼児では過剰投与により、腎結石など発症することがあります。尿中カルシウム排泄量、血液検査、臨床症状などを参考にして投与量を決めます。長期間にわたることも多いので慎重な経過観察が必要です。
※血清25(OH)D濃度の測定は保険外適応になっています。一般の私達では診断治療を行うことは難しいです。
ビタミンD欠乏に陥った原因や誘因が改善されていれば、投薬を中止しても再発はおこりません。

 類骨:オステオイド(osteoid) 石灰化前の新しく形成された有機骨組織のこと

☆皮膚から合成(7-Dehydrocholesterol から) あるいは食事から摂取したビタミンDは肝臓で25位が25水酸化酵素によって水酸化された後、腎臓で1α水酸化酵素より、活性型ビタミンD{1α、25(OH)2D}となる。活性型ビタミンDは標的組織の核内ビタミンD受容体(VDR)と結合し、標的遺伝子の転写を調節することにより、カルシウムの恒常性をが維持される。

副甲状腺機能亢進症
原因:原発性副甲状腺機能亢進症は小児においてはまれで、副甲状腺の腺種などによって副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰分泌される。
症状:高カルシウム血症により不機嫌、筋力低下、嘔吐、多尿、多飲等が見られる。
骨はカルシウムが遊離されるため、クル病を思わせる変化が見られ、遊離カルシウムによって腎結石等を認めることもある。治療は副甲状腺を唖全摘する。

副甲状腺ホルモン(PTH)はビタミンD等とともにカルシウムとリンの代謝を調節しており、骨からはカルシウム、リンを動員し、尿細管でカルシウムを再吸収する一方リンは再吸収を抑制し、血漿中では高カルシウム、低リンとなる。
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