乳児脂漏性皮膚炎


新生児皮膚の一過性の皮脂分泌亢進に伴って、頭皮や顔などの脂漏部位に限定して皮脂量が多くなり、それが毛で覆われた頭皮や眉毛部に堆積して固まり、黄白色の厚い痂皮(乳痂)が付着します。
毛で覆われていない顔や耳などにも過剰な皮脂分泌に刺激されて炎症を生じ、紅斑、丘疹、膿疱などを生じます。

原因
はっきりとはわかっていません。新生児〜生後2ヶ月の皮脂分泌が活発な時期に多く、その後は軽快していくこと、脂漏部位に多いことから、皮脂分泌と密接に関連して生じると考えられています。

治療および生活指導
固形石けんもしくはベビー用無添加の液体洗浄剤をよく泡立てて、脂漏部位や間擦部位を丹念に、しかし、こすりすぎないように注意して洗います。頭皮や眉毛に固着した乳痂は、オリーブ油を浸して十分に軟らかくしてから石けんで洗いましょう。
痂皮が厚くオリーブ油ではとれない場合には、亜鉛華軟膏、白色ワセリンなどをリント布にのばしたもの、あるいはボチシートを半日〜1日貼っておき、その後オリーブ油で拭き取り、石けんで洗います。いずれの方法でも1回でとれるのではなく毎日1〜2週間続けることが必要です。
石けんで良く洗った後は、紅斑、丘疹、膿疱、びらんなど、湿疹病変の強さに応じて外用薬をつけます。顔面で軽い紅斑、少数の丘疹くらいであれば、プロペト、アズノール軟膏、アズノール+亜鉛華軟膏(1対1)などで様子を見ます。 丘疹や膿疱が多発集簇子、びらんが見られるような場合は、ロコイド軟膏などのマイルドクラスのステロイド外用薬を1日2回、数日間塗ってから、紅斑・丘疹がなくなったらステロイド軟膏以外のものに切り替えます。
頭皮は痂皮が取れたら、リドメックスローションなどを紅斑がなくなるまでぬり、その後は非ステロイド系ローションで維持します。
症状がなくなっても1日1回は入浴し、石けんを使ってていねいに洗い、その後はプロペトや市販の乳児用ローションなどで保湿、保護するという一般的な清潔と保湿に努めるスキンケアで良好な状態を維持させましょう。

経過
早ければ生後1〜2週間頃から、顔、頭皮、耳などが発赤し、紅色小丘疹ができ癒合して紅斑となり、細かい麟屑が付着してきます。さらに頸、腋窩、そけい部などの間擦部にも広がる場合があります。さらに麟屑が多くなると、落ちにくい頭皮や眉毛部、耳介とその周囲などでは、集塊をなして淡白色の厚い痂皮となり固着します。
食はあまりかゆがらず、掻いて血だらけになったり、こすりつけて皮膚が剥げてびらんとなったりすることはまだありません。新生児の3分の1が経験します。頻度が高い湿疹であり、適切なスキンケアを行えばアトピー性皮膚炎に移行しないかぎり、予後の良い疾患です。
アトピー性皮膚炎との鑑別や移行が問題になりますが、痒みが少ないこと、病変がほぼ脂漏部位に限局していること、頭皮や眉毛に厚い乳痂が固着していること、2ヶ月を過ぎると自然消退することにより、鑑別します。 いったん乳児脂漏性皮膚炎が治ってから、再び乳児アトピー性皮膚炎が生後4〜5ヶ月から発症することがよくありますが、また一方で乳児脂漏性皮膚炎からそのままアトピー性皮膚炎に移行することもあります。

(文献 馬場直子 :小児科診療、781455−1457,2015)

 
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