セイタカアワダチソウの憂鬱   


 せかせかと日が傾きはじめ、ひんやりとしたすきま風が身にしむようになってきた。
 道ばたや土手などには可憐なコスモスがやさしくほほえみ、秋の光にススキがきらきら輝いてやわらかに揺れている。しかし、すぐにその素敵な気分は不作法な黄色の帯によって壊される。セイタカアワダチソウである。この毒々しい黄色はまさに悪役と呼ぶにふさわしい。
 北米から日本に入ってきたのは明治30年ごろというからもう100年以上にもなる。蜂蜜を採る草花として日本へ入ってきたという。素人には信じがたいが生け花用としても使われているらしい。

 さて、道ばたの陣取り合戦で断然優位に立っているこの草はどんどん領域を広げ、空までも伸びそうな勢いである。家の前にある公園の外周にもおびただしい黄色の群生がある。その中にひときわ高く伸び上がっている数本があり、こちらを見ているよう。散歩の途中に目が合った気がした。通り過ぎた後、こちらに向いてきそうだった。その様子は小ぶりの恐竜のようにも見える。スタイルは草食獣のそれだが、どう見てもどう猛でなおかつスカベンジャーの雰囲気も併せ持つ。限りなく増殖しそうである。
 この勢いを見ていると、空き地や土手はセイタカアワダチソウに覆われてしまいそうだ。このきわめて強い繁殖力は非常にたくさんの種をまき散らすことと、地下の茎が他の植物が育つのに害になるような物質を出すことによる。後者の作用をアレロパシーという。
このお陰でセイタカアワダチソウはどんどん増えてゆく。しかし、不思議なことにある一定以上増えると増えなくなってしまうのだ。このアレロパシーがセイタカアワダチソウ自身に作用して、成長がストップしてしまうのだという。やはりこのように繁殖力の強い生物は強くなりすぎないように神様がストップをかけているのだろうか。
どんどん勢力を伸ばし、我が世の春を謳っているように見えても、実は広がりすぎないような仕組みがある。また、クズなどの植物がセイタカアワダチソウの出す分泌物が届かないところに伸び、光が当たらないようにして、セイタカアワダチソウの繁殖を抑えるのだそうだ。このように強力なライバルの出現もある。

   こうしてみるとどこやらの異常増殖をしている生物とはかなり違った状況だ。セイタカアワダチソウは繁殖しすぎないように自らの出す物質で制御していると考えることもできる。
 その生物はわざと子どもを生まないとするカップルが出現してきたり、環境ホルモンなどの化学物質を生みだし、さらに互いに徹底的に殺戮し合うなど、一見アレロパシーが自らに作用しているような事例を多く見かけるが、そうではない。際限がないのである。限りなく滅亡という終末に転がり落ちてゆきそうである。

 鷲羽山の中腹に色あせたたった一本のやせっぽっちのセイタカアワダチソウが頭を垂れていた。朽ち果てて忘れ去られた道しるべのようだった。
(児島医師会報 2004.12月号掲載)

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