ツクツクボウシ  


今年は暑かったためか、ツクツクボウシが10月半ばまで家の前の公園で鳴いていた。
さすがに10月ともなるとその侘びしさは隠しようがない。2〜3匹が鳴いていたが、いつの間にか1匹となりひとり頑張っていたが、しばらくするとその声も消えた。
ツクツクボウシは今年の7月頃から鳴き始めたが、氷を削るような狂おしいクマゼミたちの鳴き声にかき消されていた。
しかし、クマゼミのお昼寝中にもツクツウボウシは猛暑にもめげず元気に鳴いていた。ツクツクボウシは本来鳴き始めが遅く晩秋まで鳴くため"寒蝉"として秋の季語とされている。昔は秋の蝉だった。

近年の異常気象のためかツクツクボウシは早く鳴くようになったと言われている。逆の現象か猛暑にもかかわらず個体数は増えているようで、寒蝉と呼ばれる割には暑さに強いのだろう。このひどい環境にも適応しているようだ。スマートな体型に似合わずタフなセミだが、用心深くなかなか近くでは見ることができない。
ツクツクボウシという名前がなじみ深いが、現代俳句では七音のツクツクボウシより五音の法師蝉が多く使われている。
いつも元気で騒がしかったアブラゼミはもうこのあたりにはほとんどいなくなり、クマゼミに対抗できる蝉はもういないようだ。
しかし、秋が顔をのぞかせシャーシャー、シャーシャーが遠くなると、存在感を増してくる。秋の対抗馬、カナカナのヒグラシは個体数が減り勢いが衰えているとも聞く。実はヒグラシも早くから鳴き始めるらしいが、今年は残念なことにヒグラシを一度も聞けなかった。

地域と人によって鳴き方の感じ方が違うようで、誠文堂新光社の日本産セミ科図鑑では「オーシンツクツク」と表現されている。
腹部を自在に動かして他の蝉には観られない独特の鳴き方ができるのだという。ツクツクボウシの美しいトーンは歌にもたとえられていて、小泉八雲は「鳥の歌そっくりの歌いぶり」と言ったという。しかし初めて日本に来て蝉を知らない外国人はひどい騒音としか感じないようだ。
正岡子規は「ツクツクホーシツクツクホーシバカリナリ」と詠んだ。それでもツクツホーシの連呼がだんだん切羽詰まってくるところは情熱的でどきどきするし、その後のウィヨース、ウィヨースでは愛嬌を振りまき、さらに最初と最後のズィーッでは「どう?」と聞いてるようで、これが効いていてとても愛らしいと思う。最後のズィーッは近くにいるメスが合いの手を入れているとか、別のオスが邪魔をするという意見もある。

蝉と言えば残されたほんのわずかな地上生活の最後の最後まで命の限り鳴いて子孫を残すために体を震わせる姿に哀愁を感じる人が多いようだが、その姿をもののあわれとしてきた日本人の遺伝子があるのだろう。
ただ、蝉の地中生活は6〜7年で、地上では1週間ほどしか生きないと言われていたが、実際は1ヶ月くらい生命活動をするということだ。昆虫の中では意外と長生きなのだ。 ただ一度最初で最後の燃えるつきる恋かと思っていたけれどそうでもないようだ。
まだまだ暑い公園の中でただひとり鳴き続けていたツクツクボウシくん。すてきな君の鳴き声を未来に残せたかな。
(児島医師会報 2013年掲載)

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