レーザー療法


 現在、レーザー照射は母斑、血管腫の大変有効な治療法です。
レーザー照射はレーザー光が特定の波長を有する色を持った物質(メラニンやヘモグロビン)に特異的に吸収され、そこで熱を発生してその周囲の組織だけを破壊するものです。
そのため目標とする病的な組織以外の正常な組織は傷つけられないのです。
これまでに他種類のレーザーが開発され、様々な母斑症の治療に応用されてきました。

レーザー照射の適応となる主な母斑とレーザーの種類
1.単純性血管腫  色素パルスレーザー(ダイレーザー)
2.扁平母斑   ルビーレーザー
           色素パルスレーザー
           Qスイッチレーザー
3.太田母斑・異所性蒙古斑 
           Qスイッチ・ルビーレーザー
           Qスイッチ・アレキサンドライトレーザー
           Qスイッチ・ND:YAGレーザー
太田母斑はレーザーが効果的です。

レーザー照射を行う年齢や部位に特に制限はありません。しかし、血管腫においては若年者の方が有効です。
また、母斑の種類にかかわらず、顔面・頸部の病変は体幹・四肢のものに比べて有効例が多いようです。
照射時にわずかに痛みがありますが、照射面積が小さければ麻酔は必要ありません。しかし、範囲が大きければ成人でも局所麻酔が必要です。
幼少児では全身麻酔が必要です。眼球の損傷を防ぐための眼球プロテクターを用いる方がよいでしょう。

※ルビーレーザー
メラニン色素が赤色の波長の光を吸収しやすいことを利用し、シミ・ホクロ消しに利用されています。
※Qスイッチレーザー
シミやほくろなどの黒い色だけに反応して色素を壊します。シミ以外の肌にはダメージを与えません。
※ダイレーザー
血管腫の赤い色は酸化ヘモグロビンの色ですが、この酸化ヘモグロビンの吸収波長のピークに一致した585nmの単一波長の光を出すレーザーが、ダイレーザーです。このレーザーを皮膚の表面から照射することにより、赤い酸化ヘモグロビンに特異的に光エネルギーが吸収されて、瞬時に赤血球が破壊され、その熱が血管内皮細胞に伝わり、血管が破壊されます。 その際、血管周囲にも熱は伝わりますが持続時間が非常に短いパルス波であるため、組織の損傷は最小限となり、痕を残さない軽い程度で済むのです。

赤アザの治療には色素レーザーを使います。色素レーザー光は酸化ヘモグロビンの赤によく吸収されます。その熱を毛細血管壁に伝え、血管を破壊しようと言うのが赤アザ治療の原理です。 色素レーザーはQスイッチとは異なり、マイクロ秒単位と長めの照射時間で赤血球に熱を伝え、その熱が血管壁まで破壊します。じわりと焼くのが特徴です。

赤血球は血流に乗って血管内腔を移動しているため、血管壁に熱を伝えて破壊するために必要な照射時間とエネルギー値を決めるのが難しいのです。十分なエネルギーが伝わらない場合、血管壁が破れて内出血し、紫斑が生じますが、肝心の血管は残ったままになってしまいます。一方でレーザー照射が強すぎると皮膚が焼かれてケロイドが生じます。難しいところです。 東京女子医大第二病院形成外科教授若松信吾氏によると色素レーザーによる血管腫全体の治癒率は完治20%、色が薄くなる程度の効果は70%、無効10%程度といわれています。
ただ瘢痕を残さず短期間で治療を終えるためには、発症早期での治療が重要です。イチゴ状血管腫は生後まもなく発症し、多くの場合5〜6年以内に消えていきます。しかし、一部では大きく膨らみ潰瘍を生じて欠損したり、皮膚のたるみが生じることがあります。その場合は色が消えても皮膚に瘢痕が残ってしまいます。早めに治療するのがよいと思います。
※レーザー治療後はT〜U度の熱傷になるので、軟膏を塗布してガーゼで保護する治療を1週間ほど行う必要があります。
※単純性血管腫に対するダイレーザー治療は低年齢から開始するほど効果が良く、より赤い色が消退しやすいです。
※ダイレーザー治療の部位別の有効率は顔、体幹、上肢、下肢の順に良好です。
※Vビームレーザー(超ロングパルスダイレーザー)
 従来のダイレーザーに比べ、少し波長が長いため、より深くまでレーザー光が到達して、より深部の毛細血管を破壊することが可能です。

シミの治療について
 一方、「レーザーの普及に伴い,本来は適応でないアザ,特に一部のシミに対してレーザーを照射し,逆に色が濃くなってしまうようなトラブルも増えているようだ」と帝京大皮膚科教授学渡辺晋一氏は指摘しています。
 極端な言い方をすれば,アザであれば何でもレーザーを当ててしまう傾向があるということです。特に議論になるのがシミヘの照射です。
 表皮にメラニンが集まってできる茶アザの中で,一般に[シミ]と呼ばれているものに,扁平母斑,肝斑,老人性色素斑,雀卵斑などがあります。
  この中で若人性色素斑,雀卵斑に対してはレーザー治療の効果は高いです。
 扁平母斑については大半は,レーザー治療で色が完全に消えても,半年もたつと色素が集まって再びアザになります。根治は難しく,脱色素剤などとレーザー照射を併用して,アザの濃さをコントロールする保存的治療になります。
 肝斑に対するレーザー照射は禁忌です。光に反応して逆に色が濃くなってしまうからです。肝斑の治療にはハイドロキノンなどの外用脱色素剤が有効です。
 美容や若返りという観点から,シミの治療がレーザーブームの火付け役になっているのですが、鑑別を誤ってはならないです。  だが現実には,シミ治療に対する需要は高いです。北里研究所病院美容医学センター長の宇津木龍一氏は「当センターでレーザーを受ける人の2割はシミの治療。シミとはいえ、患者には切実な問題。そのことで悩み、抑うつ状態になる患者もいる。むしろニうした患者が今後は増えるはずだ」と語っております。
 ここ数年で、シミの性質や治療のプロトコルが明確になってきたしレーザー治療を行う医師も増えています。「今後は鑑別診断を確実にして、レーザーも含め総合的に治療法を判断、シミを積極的に治療する時代になるだろう」と宇津木氏は将来を予測しています。

より低侵襲な治療法へ
 最近,lntensed Pulsed Light(IPL)といった装置を使った治療が注目されています。Qスイッチ付きのレーザー装置が選択的に標的を破壊するといっても、血がにじむなど、少なか らず皮膚にダメージが加わります。IPLは、表皮にダメージを与えないでメラニンや血管だけを破壊しようという試みの一つです。
 IPLはレーザーのように単波長ではなく、白色光を照射します。フィルターによって、有害な紫外線など特定の波長をカットできます。照射時間も自由に変更でき、フィルターの組み合わせによって、色素や毛細血管を破壊できます。
 照射エネルギーをコントロールすれば、扁平母斑や老人性色素班なども治療できることが分かってきました。数カ月に1回照射することで、いわゆるシミの色を薄くしたまま、その状態を保つことができる可能性もあり、今後の研究が期待されています。

※雀卵斑(じゃくらんはん)
  雀卵斑(じゃくらんはん、英: ephelis)は、皮膚にできる色素斑(しみ)の一つ。文字通りスズメの卵(卵殻)の模様に色や形が似ていることから名付けられた。一般的にはそばかす(英: freckle)と呼ぶ。 日本では、医薬部外品の成分として「シミ・そばかすをふせぐ」という効能表示が承認された日焼け止めや美白化粧品がある。

(文献 37 P270 井上邦雄 、47 p113 馬場直子 、  Nikkel Medical 2000.12月号 )

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