おたふくかぜ
おたふくかぜとは
耳の下の唾液腺の耳下腺が腫れて痛くなる病気です。両側の耳下腺がしっかり腫れると「おたふく」のお面のようになるので、おたふくかぜといわれます。正式には流行性耳下腺炎といいます。顎の下の唾液腺の顎下腺も腫れることがあります。両側が腫れることが多いですが、片側だけのこともあります。片方だけの場合が25%くらいと言われていますが、実際にはもっと多い印象です。ひどく腫れる場合は頸の付け根の方まで皮膚全体が腫れることがあります。この場合、頸がどんと太くなったような感じになります。
1週間から10日間ほど腫れます。顎下腺が腫れると腫れがなかなか引きません。2〜3週間も腫れることもあります。 熱は出ることが多いですが、出ないこともあります。高熱の頻度は高くありません。
熱は3〜4日ほどで下がります。潜伏期は15日〜21日くらいと長く、かかっていない兄弟など、60%ほどの確率で感染します。ただし、年齢によって感染率が異なります。年齢が小さい場合には症状は出にくくなります。
顕性感染率(感染して発症する率)は3〜4歳で90%、発症者全体では70%といわれていますが、実際にはもう少し少ないのではないでしょうか。 診断
2つの耳下腺、2つの顎下腺のどれか2つが腫れている場合には診断は難しくありません。
片方だけで熱がない場合には診断が難しいことがあります。化膿性耳下腺炎や反復性耳下腺炎などと区別が難しいことがあります。片方の顎下腺だけが腫れている場合はさらに難しいです。
唾石症もおたふくかぜににていることがあり、診断が難しいことがあります。
血清学的検査法
血清学的診断法ではIgM抗体陽性、ペア血清によるIgG抗体の陽転または有意上昇のいずれかで診断します。酵素抗体法(EIA)は感度が高くIgM抗体とIgG抗体を別々に検査することも可能です。再感染時にもIgM抗体が陽性になることがあり、初感染と再感染の鑑別にはIgG抗体avidityの測定が有用です。
原因
おたふくかぜウイルスが感染して起こります。唾液腺でウイルスが増え、飛沫により感染します。症状が出る2日前くらいから感染するといわれています。唾液腺が腫れている間は感染します。
治療
痛みなどを抑える薬を使うことがあります。ウイルスに効く薬はありません。4日〜14日で自然に腫れは消失します。顎下腺の腫れは引きにくく、2週間から3週間腫れることもあります。
家庭での注意
食品は酸っぱいものや、固いもの、塩辛いものは避けます。
入浴は熱がないときはさっと入るくらいならかまいません。
腫れているときは感染しますので、学校、保育園、幼稚園はお休みです。
熱が再び出て、頭を痛がり、何度も吐くときは無菌性髄膜炎の可能性がありますので、早めに診察を受けましょう。
腹痛が強いときや、男児で睾丸を痛がる場合も早めに診察を受けます。
★おたふくかぜの無菌性髄膜炎は以前にいわれているほど高頻度ではありません。当院では5%以下です。一般には3%程度といわれています。1〜2週間ほどで治癒する合併症の一つで、それほど心配な病気ではありません。しかし、輸液や入院が必要となることがあります。また、潜在性てんかんになることもあるので、要注意です。
成人になってからのおたふくかぜはひどいことが多く、男性では頻度は高くないのですが、両側の睾丸炎を起こしてきた場合には無精子症となり、その結果不妊症の原因となります。教科書には両側の睾丸炎を起こすことは非常にまれと書いてあります。しかし、私の患者さんのおとうさんがその子から感染し、両側の睾丸炎を起こし、不妊症となってしまいました。ですから頻度が少ないからと油断はできません。女性では乳腺炎や卵巣炎なども頻度は少ないのですがみられます。
★また、あまり知られていませんが、最近注目されてきた合併症に感音性難聴があります。感染者の700〜1000人に一人くらいといわれています。聴力検査を全員に実施しているわけではないので実態は把握されていません。聴力異常に気づくのは急性期ではなくて、多くの場合治癒1〜2週間後で、時には1〜2ヶ月後のことがあります。難聴症状はめまいとほぼ同時に出現することが多いといわれています。治癒の期待できない、いやな合併症の一つです。片側だけで高度難聴になるものが多いといわれてきましたが、両側性のものや軽症例もあることがわかってきました。
脳炎:感染者の0.02〜0.3%といわれており、こちらも注意が必要です。
膵炎:数%といわれています。上腹部痛、悪心、嘔吐、発熱で発症します。血清中のリパーゼ、αアミラーゼが上昇します。一週間程度で軽快することが多いようです。
予防
生ワクチンをします。1歳からできます。任意接種でお金がかかりますが、上のような合併症にかからないためには是非受ける必要があります。大きい子どもや成人の方はおたふくはかかったかどうかわからない人が多いので、検査をして抗体がなければ受けておきましょう。以前は検査自体があまり精度がよくなかったのですが、最近抗体がきちんと検出されるようになったので、チェックをする価値があります。
検査を受けずに、ワクチンをする方法もあります。ワクチンはわずかですが、副反応のリスクがありますので、検査をしてからの方がいいとは思います。
罹患したかどうかはIgM抗体を検査するのが良いでしょう。
兄弟がかかった場合にはワクチンは間に合いません。
おたふくかぜは大きくなってからもかかったことがあったかどうかよく問題になりますし、子どもから親がもらって大変な目に遭うことがありますので、必須に受けていただきたいワクチンであると考えています。
(文献 1. 2. 17. 18)
★他のウイルスでEBウイルス、コクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルスなどの感冒症状とともに耳下腺が腫れることがあります。
シェーグレン症候群なども耳下腺が腫れることがあります。
★ムンプスウイルスは神経親和性が高く、内耳の神経系細胞である蝸牛細胞に感染して障害を起こすといわれています。