元日の夜



 元日の夜、はがきを出しに外にでた。ひんやりと風は冷たく、しかし、優しく吹いていて、心がつるんとした。空は雲もなく、暗く、星がうれしそうに話しかけてきた。めがねを忘れて、星達はぼんやり。とてもきれいな夜だった。さらに素敵な夜空を半ば空想して、上を向いて歩いた。とてもとても静かだった。人も車もいない。街は息をひそめている。このあたりは田舎だけれど普段は騒々しく、たくさんの美しくもない光に満ちている。今日は看板もネオンも見えない。素敵な夜。こんな静かな夜はおそらく今日だけ? 
よせばいいのに2日から商売をするのが普通になった。

 車が走っていないことはこんなに素敵なこと。人々は外に出ず、出かけるところもない。家族団らんかな。子どもの楽しそうな声が聞こえる気がする。いつもはつっぱりの少年もにこやかに笑っているかも。空気も澄んでいる。

 静寂、日々の喧噪の中で私たちが忘れているもの。若者はロック全盛で、耳が悪くなり、音に対して鈍感になっている。カラオケはただやかましいだけ。うるさいものでないと満足できなくなっている。今の生活は味覚や嗅覚はもとより、聴覚も失われてきている。品のある優しい音は消えている。
 感覚の鈍麻が私達人間にどんな影響を及ぼすのか。生命体の源を支えるものが壊れつつある。自然の生命力を失ってきている。

 静寂と星の光の中で感覚が鋭くなるような気がした。
 風は優しく語り、星がささやいていた。歌を口ずさみながら、今夜はゆっくり遠回り。

(2000.1.3)

前の画面に戻る 俵屋騒動へ
禁転載・禁複製  Copyright 1999 Senoh Pediatric Clinic All rights reserved.