悲しき2000円札


 今はなき小渕元首相が2000年の記念にと創った2000円札。営業用の手提げ金庫の中でひとり無聊をなぐさめている。出始めのときにあまり多くの人々ではないにしても、皆喜んで欲しがっていたっけ。初めてのものを手にする喜びはあったようだ。
手提げ金庫の中の1枚はずいぶん前から行き場もなく、己の存在を強烈に示すほどの器量もなく、自らを達観して静かに余生を送っているかのように見える。

 それにしても、彼はなぜ生まれてきたのだろう。2000年の記念にと、故小渕恵三元首相が話題づくり、いや、経済振興策の起爆剤の一つとして創らせたものだったと思う。しかし、経済がこの紙幣によって活性化されたとは誰も思うまい。

 使われることもなく僕のところの1枚と同じように静かに片隅で眠っているものがほとんどではないか。実際に私のところだけではなくて、外で使用されているのを見たことがない。使おうとしても使いにくい点もあろうか。間違えそうだし、手提げ金庫に入れる枠もない。
この紙幣が生まれるために国はいったいいくらお金を使ったのだろうか。紙幣は日本の技術をいかして、大変精巧に作られていて、なかなかきれいな紙幣である。個人的には嫌いではないが、本当にお目にかかることが少ない。

 僕は経済音痴だから、よく分からないのだけれど、グレシャムの法則である「悪貨は良貨を駆逐する」の反対の状況のようである。それとも2000札は良貨なのだろうか。
こんな寂しい紙幣を創った責任を取れといっても、無理な話になってしまったが、小渕さんの形見としてはお粗末なものとなってしまった。
お年玉として年始にはいいかも。この額では叱られるか。

(2000.9)

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