お骨



 昨年、義父が亡くなり、葬儀に関わった。骨納めをした。ずっと前から骨はどうなるのか疑問だった。この歳で火葬後、骨上げをするのが初めてだった。
火葬場の簡素化なのか「橋渡し」で、骨片を1本ずつの木と竹の箸で挟んで骨壺へ入れるという訳の分からないことをした。従来の2人でお骨を箸で挟んで渡すことを省略したわけである。橋渡しとは三途の川を渡すという意味で、子どもの時、食べ物を箸から箸でつかんでとろうとして、祖父に叱られた。縁起が悪いということを知らなかった。どちらにしても一過性仏教徒であるからして致し方ない。

 ところで骨上げのときに係りの人が骨を見て、亡くなった人はどこそこの骨が悪いのでどういう病気だったと教えてくれるということを聞いていたので、期待していたのだが、午後5時直前だったためか、骨上げをせかされたあげく追い出されてしまった。ここは役所なんだ。
それにしてもたくさんの骨が骨壺には入れられず残ったがこれらは何処へ。

 さて、納骨。墓の中の納骨棺という空間に入れるのだが、これが不思議である。骨壺に入ったお骨はいったいどうなるのだろう。ある博学の先生は骨壺には底に穴があいていて、十何年もしたら、骨は溶けてしまうということだった。何千年も前の骨が出土することがあるので、これも不思議だ。義父の骨壺には穴はなかった。いろいろなタイプがあるらしい。どちらにしても納骨棺は土の上に置かれる。先祖墓というのがあるが、これだとたくさんの人たちがこの中に入るので、相当広くなければなるまい。別の博学の先生は骨壺を小さくするのだとおっしゃった。
葬儀の時に僧侶に聞いたらその寺では小さくするということだった。

 ひろさちや氏によると、インドではガンジス川に散骨をしていて、インド人には墓は必要なかったらしい。かの国では火葬を当たり前にしていた。ガンジスのほとりで荼毘にふされている風景が普通である。ただ例外として、釈尊のように悟りを開いた仏陀は墓をつくってよいことになっているらしい。
日本人にとっては土葬が本来の葬法で、伝統的な死後の世界観では死者が死後に行く世界は地下にあるとされ、「黄泉の国」という意識が強いという。このため、死者を墓の下に埋葬することが死者を葬るのに適していると考えているという。いやだな。
 そして仏教が伝来して火葬することになった。

 子どもの頃、祖父が亡くなったとき、いやいや火葬場についていった。骨上げをするかと聞かれて、飛んで逃げた。とにかく怖かった。釜と煙が怖かった。煙に巻かれるかもしれないと不安だった。死んで何処に行くかということよりは、とにかく怖かった。当時から、死んだらなーんも無くなるということを感じていた。天国も極楽もどうしても信じられなかった。もちろん今でも。
僕にはそろそろ宗教が必要なのだろうが、こんなにひねくれていてはどうにもなるまい。それでもあの中で焼かれるなんて今でもとても怖い。ある小説で主人公が棺の中で、目が覚め、火が周りを取り囲み焼かれるという僕にとっては恐ろしい話が思い出された。

 もう一つ、子どもの頃、墓を見ていて、いつか地球が墓でいっぱいになる心配をして眠れなかったことがあった。本当に変な子どもだった。でも今、都会では事実墓地の土地が無くなるということが起こっている。それはそうだろう、有史以来、現在までに約700億人がすでに亡くなっているらしい。
場所がなくて、宇宙にロケットで打ち上げるなんていうのも始まるかもしれない。宇宙葬である。そうなると墓ロケットが宇宙ゴミになる日も近い。どっちにしても我が地球は50億年もたてば消滅するのだから、心配する必要もない。

 さて、見回すといろいろな葬法がある。土葬はポピュラーだ。土に帰れそうで自然だ。だが、何年かおきに掘り返し、運び出し先祖を祭る民族もある。少々気色悪い。チベットには鳥葬というのもある。鳥が食べやすいように頭蓋骨までも石で砕いてしまう。習慣が違うとおぞましい感じがする。また、まったく手も加えず、そのまま誰も近づかない土地に遺体を置いてくる民族もある。日本でもその昔、京都小倉山の化野は風葬の場所であったと言われている。あるいは海に流す水葬もある。ロマンチックである。
その中では火葬というのは清潔であろうか。感染症など防ぐ意味もあろう。

 ところで散骨は日本では許可を受ければできるそうだ。ただのリン酸カルシウムになるので、不潔感はない。
沖縄の海かヒマラヤの麓か、近いところで大山の麓か、桜の苗木の根本なら散骨されてもいいな。ソメイヨシノは短命なのでだめか。いっそ屋久杉の根本が良いかも。持っていってくれる人が大変だ。そのうち散骨ツアーなんか出てくるかもしれない。

疑問は何一つ解けてはいない。今夜もまた眠れそうにない。

(2000.2)

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