NHKに「ようこそ先輩」という番組がある。これはある有名人が母校に出向いて後輩の小学生に講義をするというもので、そのときにはシンガーソングライターの小椋佳さんが登場していた。この番組は意外な展開を見せてくれるのでできるだけ見ることにしている。
その中で彼が開口一番、「人はみんなそれぞれ違うんだよ。一人として同じ人はいないんだ。」と言った。子どもたちはそのことを素直に受け入れているようだった。そして、みんなが良く知っている歌を参考にして、自分たちで歌詞と曲を作るという"小椋先生"の音楽の授業を本当に楽しそうに受けていた。
人はそれぞれ、肉体はもちろんのこと、考え方、生き方、好きなもの、嫌いなもの、その他、すべてのことに関して完全に異なる存在である。無論、人間だけではなく、生き物やそれ以外のものもすべての存在が互いに異なる。唯一無二の存在なのである。そのことを最初に認識することが非常に大切なことだと思う。小椋佳さんはこのことを最初に子どもたちに教えた。これだけでもこの小椋佳という人が本当にすばらしい人だということがわかる。
今年の成人の日に岡山の町でたくさんの新成人の大群に出会ったが、その画一的な様子には本当に驚かされた。
かなりの数の新成人となる女性たちが着物を着ていた。それはそれで良かった。ただ、その着物は一様にえんじというか、暗赤色で、その模様もほとんど同じものであった。どうしたら、このように同じようにできるのだろう。色は流行なのだろうけれど。ショールも、化粧も髪型も驚くべきことに姿勢までも非常に似かよっていた。そして同じように携帯電話(またはPHS )で話していた。大きな集団が通り過ぎると、次のまた同じような集団が通り過ぎていく。私には異様だった。人と同じになりたい。同じものを持ちたい。たとえばヴィトンを持ちたい、みんな持っているから。それが自分を守るすべであるかのように。
そこには個性はない。テレビなどで、東京の若者たちがひたすら目立ちたいがため(と私は思っていた)に驚くほどケバイ衣装に身を包み、体の至る所に穴をあけている様子を見ると、あれも没個性的ということの裏返しなのであろうか。ケバさが似ている。
心の底では皆と同じになりたいという気持ちが見え隠れしている。
今の若者には心理的に疲れたくないという欲求があるという。人とは違うことをする事に疲れてしまうのだろうか。確かに個性的であることは心的エネルギーが必要だ。
どうしたら人と違う生き方が出来るのか。それが一つの大切な生き方なんだということを真剣に子どもたちに教えていい時期ではないか。それこそが個性を引き出す教育だと思う。繰り返すが、人間は本当にみんなそれぞれ、なにからなにまで違う。たとえ、他の星に生物がいたとしてもこの広い宇宙でたった一つの貴重な存在。
このことをもっと子どもたちに自覚してもらいたい。そして、お互いが違うことを認識し、それを自然に受け入れ、その上でお互いを尊敬し、まずは学校という一つの社会の中で協調し合ってほしいと思う。それができればいじめも登校拒否もなくなると思うのだが。
(99.4)