子どもを生み育てること


 女の子が4人いる母親が末っ子を連れてきた。もう1年生になるその子は時折母親のほうを振り返っていた。母親はおなかが大きい。気付っているようでもある。「いつ?」「4月です」「もうわかっているの?」とにっこり「Vです」。
 待ちに待った男の子である。この方のように5人めを生もうとする人はもう本当に希である。現在の日本では大きな問題となっているようにひとりの女性が一生の間に生む子の数は1.4人を割っている。小児科医としては心配なところだ。現在の日本では女性が職場にどんどん進出してきた結果、従来の家庭での育児を中心とした仕事に夫の理解がないことと、ひとりの子どもにかかる労力やお金が昔とは比べものにならないほど大きくなってきたこともあろう。さらに子どもを生む夫婦が減ってきている。子どもを生み育てることもなくその一生を終える女性が増えてきている。

 生物としてもっとも基本的なものは食と生殖であり、食を失えば直ちに生きることはできない。生殖を放棄すれば種としての存続を失う。種を維持するための生殖を社会的な性に置き換えながらヒトはあまりにもあまりにも急速に進化してきた。もはやその流れをだれも止めることはできない。ヒトに種を維持しようとするエネルギーが欠けてきているに違いない。生物エネルギーがあふれている民族はまだまだ多いが。

ヒトはたかだか100万年ほどですでにその種の進化としては成熟し、早くも滅亡に向かっているのだろう。
子どもを生み育ててゆくのに必要で十分な社会的な状況が整わないともう女性たちは子どもを生まないだろうといわれている。そうなんだろうか。

 ただただ小児科医としては、とにかく子どもを生んでみなさい、そして抱っこして自らの乳を飲ませなさい、そしてその子の温もりや拍動を感じなさい、ほのかな何ともいえない幸せを感じなさい、それができなければ、他人の赤ちゃんを抱っこしなさい、といいたい。
今、現在の日本の女性にもっとも必要なものは赤ちゃんのスキンシップなのだと。


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