おとうのスキンシップ


 少々前のことになるが、岡山県出身で将来を嘱望されていた森安秀光9段が自宅で殺害され、中学1年生の長男がその容疑者として保護されるという悲しい事件が起こった。
彼は「僕には逃げ場がない。」と言ったという。
進学校で優秀な成績を収め、明るかった子にいったいなにが起こったのか。以前にもバットで父親を殴り殺した少年がいたが、状況は似ている。
なにがいったい彼らをそこまで追い込んだのか。本当に逃げ場がなかったのだろうか。私にはよくわからないが、父と子の心の交流がなかったのが一因だろうと思う。一緒に将棋を楽しまなかったのだろうか。一緒に遊ばなかったのだろうか。

 赤ちゃんのときから親との関係を造り上げる重要なものとして、スキンシップが挙げられよう。母親が赤ちゃんを抱いてお乳を飲ませる。もちろん母乳である。赤ちゃんは母親の鼓動を聞きながら、温かい母の乳房の感触を楽しみながら、一心に飲む。時にはじっと母を見ながら。満ち足りた後も抱っこされ、うとうとと食後の眠りに落ちる。この関係は大変重要で後の情緒の発達に大きく関係する。

 もちろん母と子のスキンシップは大切だが、父と子のスキンシップも大変大切なものではないかと私は思うのだ。父親のスキンシップはとにかく抱いてやることである。
欧米の映画を見ていると親は子供にはっきりと「おまえをとても愛している。」という。そしてしっかりと抱いてやる。よくあるシーンだが、子どもが向こうから飛んできて、父親がそれをバッと抱きしめる。見ていていいなあと思うのだ。
さっそくまねをすることにした。一番下の娘は5年生でおいでというと膝に乗ってくる。抱かれなれているのだ。が、これが重い。もう40キロ以上あるので、こちらが5分もたつと音を上げる。2番目の中学1年生の男の子は同じ事を言うとこれがなんと乗ってくる。一番上の娘は中学3年生で、油断している隙に同じ事を言うと、「なにをいってんの、このおとうは!」とにらむ。
信じられないが私のことを「おとう」と呼ぶ。
頼むからやめてくれと言うがやめない。小さいときはずいぶん抱っこしたから大丈夫かな。

 日本的な愛情の示し方は通用しなくなっている。だまっていてはわからない。はっきり言葉と体で表現しなければ。日本のおとうさんは特に留意していただきたい。どうか奥様に「愛している」とはっきり言ってあげてください。
(93.7)

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