ポプラ  


 お向かいの家の庭にポプラがある。多分ポプラだと思っていたが、「日本の樹木」という本で調べてみると、どこにも「ポプラ」の文字がない。
索引にもない。なぜ?英文索引で見ると"Populus"があった。Populus sieboldii(ヤマナラシ)、Populus alba(ギンドロ)、さらに、ドロノキ、ニオイドロという怪しげな名前が連なっているが、ポプラの文字はなく、載せられている写真にも見慣れたポプラの姿はない。
 インターネットのウイキペディアには「ポプラ(英語: poplar)は、ヤナギ科ヤマナラシ属 Populus の植物の総称。一般にはセイヨウハコヤナギPopulus nigra var. italica を指すことが多い。」とある。
何だって?こいつは柳の一種なのか。どうみても柳には見えない。
 僕のポプラのイメージは北海道大学のポプラ並木だった。残念ながら、2004年に、台風で大きな被害を受け、現在再生中とのことである。これはヨーロッパクロポプラという種類らしい。いろいろ亜系があるようで、新宿御苑のポプラはイタリアポプラという具合だ。

 居間に富良野の黄色の麦畑に空に向かって立つ一本のポプラが描かれている絵があり、ある夏、それを探しに行ったが、結局は広大な丘陵地で迷子になってしまった。画家のその孤高のポプラに対する畏敬の念が感じられる絵だった。

 ポプラ(セイヨウハコヤナギ)はその成長の早さと樹姿の大きさからとても力強い樹のように見えるが、地下の根はあまり大きく張らない。そのため倒れやすく、寿命も短いことから最近では敬遠されているようである。岡山市の運動公園にもたくさんのポプラが植えられていたが、これもまた台風で倒壊し、今はモミジバフウの樹に植え換えられている。モミジバフウの樹は新緑も紅葉も美しく、これはこれですばらしい。
しかし、ヨーロッパでは事情が違うようである。イタリアの郊外には日本のあぜ道に当たる両側にポプラが整然としかも延々と植えられ、防風林として田園を美しく縁取っている。  パリのセーヌ川沿いには3〜4メートルおきにポプラが規則正しく植えられていて、恐らくは古い樹が倒れたのか、所々に苗木が植えられていた。やせっぽっちの少年のような若木にふと、パリの人たちの愛情と心意気を感じた。

 毎日、お向かいのご主人はこの時期になると、朝早くから落ち葉を丁寧に掃いている。毎年のように上の方から剪定をされているが、切られても切られてもなお、美しく樹姿を整えて枝を伸ばすこのポプラの生きようとする力はすばらしい。
 夏には涼やかな緑陰をもたらし、美しいその姿と風になびいてきらきらときらめく大振りな葉がとてもいとおしい。風景の中に映える本当にすてきな樹である。
今日もまた、その落ち葉達はかさかさと逃げ回り、子犬と幼子たちの遊び相手に忙しいようだ。
(児島医師会報 2010年掲載)

前の画面に戻る サルスベリへ

禁転載・禁複製  Copyright 1999 Senoh Pediatric Clinic All rights reserved.