クララちゃんの恋

死んで溶けたのかとあきらめていたが、上部フィルターを掃除していたとき、なんとこの中で生きていた。どこから入ったのだろう。
この魚は物陰に隠れる性質があるので、ポンプの入り口から入ったのだろうか。だが、取水口の大きさからして全く不可能である。また、その先にはフィンがあるので、さらに入り込むのは難しい。
かくして、水槽に帰ってきた彼女は又、流木の後ろに隠れてしまった。しばらくして、もう一匹クラウンローチを入れた。ローちゃんと名付けた。ローちゃんは少し体が大きく、クラウンローチには珍しい社交家だった。平気で水槽の前の方に出てくる。そうするとクララちゃんはローちゃんの後を追うように水槽内を活発に泳ぎ回り始めた。いつも一緒だった。
ある時、今度はローちゃんがいなくなった。また、必死で探したが、わからない。モアイの置物によく隠れていたので、この中もじっくり見たつもりだった。実はこの中にいた。逆さにして、水がなくなっても出てこなかった。悪いことにモアイの置物を外に出してしまっていた。気がついたときは干物になっていた。
また、クララちゃんはひとりぼっちになった。目が合った。寂しそうにまた、流木の陰に隠れてしまった。
しばらくして、スマトラという、テトラの一種を5匹入れた。これもよく似た縦縞を持つ。大きさはそれほど違わず、クララちゃんより寸胴である。不思議なことに今まで物陰に隠れていたクララちゃんはまた出てきて、スマトラの中に入って泳ぎだした。縞柄が似ているので仲間と思ったのだろうか。その後、スマトラたちはたった1匹になってしまった。クララちゃんは大きくなって顔が少しかわいくなくなった。しかし、そのひとりになったスマトラとすっかり意気投合して、いつも一緒に仲良く泳ぎ回っている。まるで、恋人同士のように。(1999.10)

