B型肝炎ワクチンについて
B型肝炎は,B型肝炎ウイルス保有者の血液が輸血など非経口的に汚染されことにより感染、発症します。つまり、不特定多数の血液に接する機会が多い医療従事者などが感染を受けやすい病気です。米国では,同性愛者,麻薬中寺者間で流行があるため,小児全員へのワクチン接種が義務化されています。 通常、成人がウイルス感染を受けると,約30%の人が急性肝炎として発病します。一般に予後は良好ですが、約2%は劇症肝炎となり,そのうち約70%は死亡するという病気です。遺伝子組換えB型肝炎ワクチン(HBワクチン)は、B型肝炎ウイルスDNAのHBs抗原に相当する部分を酵母菌や動物細胞などの遺伝子(DNA)に挿入し,培養することで,ワクチンの有効成分であるHBs抗原を作り、免疫増強剤のゲルを加えて調整したものです。
HBワクチンが定期接種となります
1.開始時期 平成28年10月
2.対象年齢 平成28年4月以降に出生した、生後1歳に至るまでの間にある子どもたち
3.接種回数 3回
4. その他
1)母児感染予防の対象者の取り扱い
HBs抗原陽性の妊婦から生まれた乳児として、健康保険によりB型肝炎ワクチンの投与(坑HBs人免疫グロブリンを併用)の全部または一部を受けたものについては定期の予防接種の対象者から除く。
2)長期療養特例
接種の対象年齢の上限は設けない
3)既接種者の取り扱い
定期の予防接種が導入される以前に、定期の予防接種に相当する方法ですでに接種を受けた対象者については、定期接種に規定された接種を受けたものと見なす。
(平成28年6月22日 政令および省令公布)より
HBワクチンのおすすめ
現在、HBキャリア(HBs抗原を持っていてB型肝炎を発症していない人)の妊婦さんからの予防措置をしているので、キャリアの人たちの数は非常に減っています。
しかし、まだまだウイルスを持っている方はたくさんいますので、何かの折に血液を介して移っていく可能性があります。いつ何時けがをしたり、ひどい場合には輸血を受けなければならなくなることもあります。この場合輸血の血液にHBウイルスが絶対にいないとはいえないのです。また、性交渉でも感染します。いったん感染してしまうと、効果のある薬はありません。この場合は発症しても、幸い慢性化の可能性は少ないですが、将来のために必ずHBワクチンをしておくことがB型肝炎、キャリアにならない唯一の方法です。
是非受けておいていただきたいのです。 HBワクチンの接種スケジュール
血液検査でHBs抗原陽性(+)、HBs抗体陰性(−)であれば,キャリア(ウイルス保有者)であり、ワクチンは接種しません。HBs抗体陽性の場合は既にB型肝炎に対する免疫(抵抗力)がありワクチンは不要です。
HBs抗原陰性、HBs抗体陰性の人がワクチンの対象者となります。
3回接種し、2回目は1回目より4週後、3回目は1回目より20〜24週後に接種します。3回接種後1ヶ月後に採血し、HBs抗体の検査を実施し、HBs抗体が陽性となれば免疫効果が期待できます。
母児感染予防スケジュール(Hbs抗原陽性の母親から生まれた小児に対する接種)
通常、出生後できるだけ早い時期(遅くとも48時間以内)と生後2〜3ヶ月の抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG) 1mlを筋肉内に投与、HBワクチンを生後2〜3ヶ月に0.25mlを1回皮下に接種し、さらに0.25mlずつを初回接種の1ヶ月後および3ヶ月後の2回、同様に接種します。(保険適応あり)
生後6ヶ月にHBs抗体が獲得されていない場合は、HBs抗原の検査を行い、陰性の場合は必要に応じてされに追加接種します。なお、生後1ヶ月の時点でHBs抗原が陽性であった場合は以後の処置は行いません。 HBワクチンの副反応
これまでの成績では、10%前後に副反応が認められています。内容は倦怠感、頭痛、局所の腫脹、発赤、疼痛等です。
HBワクチン接種後の経過について(追加接種)
HBワクチンを3回接種してもHBs抗体ができない人がいます。この場合は3回目より6カ月〜12ヶ月経って1回追加接種すると、30〜40%の人に抗体が認められます。 3回の接種でHBs抗体ができても一生続くことはありません。通常平均2〜3年間で抗体が消失していきます。(個人差があり、長く持続する人も、すぐ消失する人もいます。)抗体が低下又は消失(RIA法10COI以下、PHA法陰転化)した場合、1回追加接種を行うと、直ちに抗体が作られ、また数年の持続が期待できます。
HB抗原による汚染事故(針刺し等)を起こした場合
HBs抗原陽性でかつHBe抗原陽性の血液で汚染を受けた場合,汚染された部分を流水でよく洗い流した後に、HBIG(抗HBs人免疫グロプリン)とワクチンの接種が必要です。
いずれも業務上は労災保険,業務外は健康保険等が適用となります。
Q1 接種スケジュールの変更は可能でしょうか。
A 通常は,用法,用量にしたがって3回接種(0、1、6カ月)を守って下さい。報告では、@(0、1、3カ月)と,A(0,1,12カ月)の接種例があります。前者は抗体産生がよくなく,後者は通常と同等の成績が得られています。
また,第1回と第2回の間隔が10〜20週と延びてしまったような場合でも,その後6カ月日に第3回のワクチン接種をし,基礎免疫を完了したと考えてもさしつかえありません。
母児垂直感染予防の場合には生後2ヶ月、3ヶ月、5ヶ月で行います。
磯部親則:Pro9.Med.11,3302,1989
Q2 追加接種の必要性について教えて下さい。またワクチンを3固接種したにもかかわらず抗体が産生されない場合はどのようにすればいいでしょうか。
A 成人にHBワクチンを接種すれば,約90%の人は抗体を獲得しますが、その抗体は次第に減衰していきます。また、得られた抗体価は個人によって異なりますので,その持続期間も異なります。一般的に、ワクチン3回接種後1ヶ月めの抗体価が高いほど持続期間も長いと考えられています。また、ワクチンによる抗体が陰性化しても1回の追加接種により抗体価は再び上昇することが知られています。特にハイリスク者は,定期的に抗体検査をし,陰性化(PHA法で陰性,RIA法で10COI以下)したら追加接種を行って,抗体価を高めておく必要があります。
一般的に,抗体のできにくい人でも接種回数を増やしたり,あるいは,ワクチンロットやメーカーを変えることによって、抗体産生が見られることがあります。また,筋肉内に注射するのも一つの方法です。
飯野四郎:日本医事新報,3353−163,1988
吉田精市:日本医事新報.3522,134,1991
新宮世三:Pro9.Med,11,1901.1991
千葉俊明他:臨床と研究.13.22711991
藤瀬清隆他:感染症学雑誌,69,164,1955
Q3 授乳中の乳児への影響(母乳移行)は心配ないでしょうか。 A B型肝炎ワクチンの母乳移行についての検討資料はありません。B型肝炎ワクチンは,蛋白質であるHBs抗原と通常ワクチンに用いられている安定剤や保存剤から構成されていますから,万一母乳中に分泌されても,乳児に与える影響はないと考えられます。
なお,母体にできた抗体が母乳中に移行することも考えられますが,この場合も小児に問題があるとは考えられません。
平山宗宏:周産期医学,17,1337,1987
Q4 RIA法とPHA法による測定法の遣いを教えて下さい。
A RIA法は,放射性同位元素を用いて免疫学的方法で測定し,PHA法は,血球の凝集で測定します。
両測定法の感度の相関を調べるために,同一検体を測定した成績によると,RIA法で陽性を示したもののうち,10COI以下のものはPIIA法で陰性と判定される場合が多いようです。
また,ワクチン3回接種後にPHA法で測定し,陰性と判定された検体をRIA法で測定すると半数以上が陽性になるという報告もあります。
これらのことから,RIA法のほうが検出感度が高く優れた方法といえるでしょう。ワクチン接種後の抗体検査は,PHA法で測定されることが多いため,実際には陽転していても陰性と判定されることは注意が必要です。ただし,測定に用いる抗原とワクチン抗原のサブタイプの一致不一致の問題がありますので注意して下さい。
林裕史他:基礎と臨床,23,2357,1989
矢野右人:からだの科学.152.53,1990
下島るみ他:臨床とウイルス,22(5).420,1994
Q5 妊娠している女性に接種してもよいでしょうか。
A B型肝炎ワクチンの妊婦に対する安全性は確立していませんので,妊婦や妊娠している可能性のある人には接種しないのが原則ですが,妊婦であっても特別に感染のリスクが高い人は接種可能と考えられます。妊娠している女性が妊娠末期に催思すれば,胎児への垂直感染も考えられるからです。しかし,妊婦はある意味では免疫寛容状態となっていますので,抗体産生が悪いことが予想されます。
もしも,妊娠していることを知らずに接種したときに,胎児への催奇形性などを心配しておられるとしたら,このワクチンは不活化ワクチンですので,胎児への感染あるいは催奇形性はありません。もちろん人工中絶も不要です。
矢野右人:日本医事新報,3251−131,1986
本多 洋:日本医事新報 3329−142,1988
Q6 母子感染予防のための乳児へのワクチン効果は終生免疫でしょうか。
A 抗HBs人免疫グロプリンとHBワクチンを併用して,B型肝炎の母子感染防止を行うと,約95%の新生児が,HBs抗体を獲得してキャリア化を免れます。しかし,HBワクチンは不活化ワクチンであるので,獲得した抗体は次第に減衰していきます。稀なケースとしては,HBワクチンによる免疫を獲得した後,抗体価が低下し,消失とともにキャリア化をした例があります。したがって,3回の基礎免疫の後に定期的な抗体検査を行い,少なくとも3歳頃まではキャリアとなるおそれがありますので抗体の低下又は消失があれば,抗体を持続させるために追加接種することが望まれます。
白木和夫:日本医事新報,3729,1995.
Q7 ワクチンの持続効果は何年でしょうか。
A ワクチン後の抗体価の持続期間は,3回接種した後の抗体価が目安となり,通常,抗体価が高ければそれだけ長く抗体価が持続すると考えられています。
ワクチン3回接種した後の抗体価が,RIA法で50COI以上であった人,10〜49COIであった人,2.0〜9.9COIであった人の3回接種38カ月後の抗体陽性率はそれぞれ100%,65.5%,0%であったとの報告があります。
ワクチンに対する反応性に個体差がありますので,接種後の抗体価を個人毎に測定しその持続期間を推定することが望まれます。
藤瀬清隆他:感染症学雑誌 69−164.1995
Q8 キャリア(HBs抗原陽性者)へのワクチン接種の効果と副反応はどうでしょうか
A キャリアとは,肝臓や血液中にHBウイルスが存在しているにも関わらず,個体がHBウイルスやその生成物を自己として認識している状態です。ですから,その個体にワクチンのHBs抗原を接種しても,HBs抗体の産生は期待できません。これまでのHBワクチン接種においては,通常接種前にHBs抗原検査を行い,キャリアは接種対象から除外されます。 Q9 サブタイブの異なるウイルスに対しては効果はどうでしょうか
A サブタイブの異なるウイルスに対しては・効果は期待できるので山 HBs抗原には4つのサブタイプ(adw,adr,ayW,ayr)があることが知られています。このサブタイブの分布は地域によヮて異なっていますが,わが国ではad型が99%以上を占めています。サブタイプの異なるワクチンがありますが,どのタイプにも感染防御に重要な共通抗原aが含まれていますので,他のサブタイプのHBウイルス感染に対しても予防効果があります。
Q10 免疫抑制剤を投与している患者にHBワクチンをしてもいいでしょうか A 不活化ワクチンと免疫抑制剤との相互作用については,インフルエンザHAワクチンとシクロスポリン製剤の報告があります。(インフルエンザHAワクチンの効果が減弱する)HBワクチンは,不活化ワクチンに該当しますが,同様の報告は確認されていません。しかし,免疫抑制剤投与中の患者は,免疫機能が低下していると考えられますので,このような状態でHBワクチンを接種しても十分な免疫が得られない可能性はあります。
本来,予防接種は健康な状態で実施するものですから,免疫抑制剤投与を受けている患者は,活動期や増悪期でない時に,医師の診察のもとで接種することが望まれます。