水痘ワクチンとQ&A
1.予防接種の必要性
水痘は,小児にとってかなり負担のかかる感染症です。健康な小児の場合は一般的に軽症ですみますが中には重症化することもあります。急性白血病,悪性腫瘍,免疫抑制剤を使用中の小児が罹患しますと重篤になりやすく,異常経過となって死亡することがあります。
本来の疾病が悪化しますが,水痘そのものが重症化して,全身性水痘になることもあります。
同じく、ステロイド剤を多量に使用しているネフローゼ症候群患者,あるいは先天性免疫障害をもつ小児が水痘に罹患しますと,重症化し,生命の危険があります。
水痘を引っ掻いたりして二次感染を起こすと癒痕が残ることがあります。まれには水痘催愚からライ症候群を起こすこともあります。
健康小児への水痘ワクチン接種は,そのメリットが大きいということで1995年米国,欧州で認可され世界的に広がりつつあります。
日本では
平成26年10月より、水痘ワクチンが定期接種となりました。
対象年齢 生後12ヶ月から36ヶ月までの児。
接種方法 1回0.5ccを3ヶ月以上あけて2回
接種期間 生後12ヶ月から15ヶ月までに初回接種を行い、追加接種は初回から6ヶ月から12ヶ月の間隔で2回目を行う。
2.水痘ワクチンの緊急接種
家族内感染,施設内感染,院内感染などにおいて感受性者の予防,蔓延の防止を目的として接種が出来ます。接触後72時間以内にワクチンを接種すれば,約80%は発病を防止できます。
3.ワクチンの保管と溶解
弱毒ワクチンウイルス岡株に安定剤を加えて凍結乾燥したものです。保管条件は5℃以下とされ,きるだけ低温のほうがワクチンは安定です。使用時に添付の注射用水0.7mLで溶解します。
4.予防接種の実際
1)接種時期と接種量
1年を通じて接種できます。皮下に0.5mlを1回注射します。
2)水痘に対する免疫の有無が不明の場合
免疫のある人にワクチンを接種しても問題ありません。
3)接種対象と年齢
生後12カ月以上の水痘既往歴のない人が対象です。血液疾患のある児などのハイリスク患者は主要な接種対象者ですが,接種に当たっては十分な注意が必要です。
Q1 自然感染の水痘の潜伏期間中に水痘ワクチンを接種してしまいました。どうなるでしょうか。
A 水痘ワクチンは、たとえ自然感染の水痘の潜伏期中に接種したとしても、ワクチンの副反応が強まることはありません。自然感染による水痘の症状とワクチンの一時的に現れる副反応とを取り違えられないように注意することが大切です。
水痘の潜伏期は13〜17日程度ですから、潜伏期の後半に接種した場合には、ワクチンウイルスは自然感染の水痘ウイルスの干渉を受けて、抗体産生を発揮できなくなります。反対に、自然水痘の患者と接触後3日以内の潜伏期中のワクチン接種である場合には、自然水痘の発病が約80%阻止されます。
Q2 水痘罹患の記憶がない人への接種はどうすべきでしょうか。
A 子どもの時に水痘に罹った場合、不顕性に経過していることがあります。小さな水疱を見逃していることもあります。罹患しているかどうかは、免疫学的検査で確かめるしか方法はありません。検査はいくつかありますが、どれも時間と費用がかかりますので、免疫を確かめることなく、ワクチンを接種しても差し支えありません。副反応が強まることはありません。
Q3 水痘ワクチンの予防効果について教えてください。
A 水痘ワクチン予防効果につきましては,90%以上の抗体陽性率とワクチン接種後11年にわたる長期追跡調査から中和抗体の持続は良好となっています。また,厚生省予防接種副反応研究班内の平成7年3月全国アンケート集計結果では,ワクチン接種者で後に水痘患者と接触のあったケースの発症率は11.2%(ワクチン接種17日以後の発生)です。このうち約90%は発疹50個以内でいわゆる軽症者であり,また,家族内感染発症率は14.1%であったことが報告されています。即ち,ワクチン接種者の大多数はその後の感染機会があっても発症せず,発症しても多くは軽症でした。
Q4 健康な人は、水痘ワクチンの接種は必要ないと聞きますが,実際はどうでしょうか。
A 水痘はハイリスクグループの人が罹患すると症状が重くなったり,生命の危険が伴ったりします。健康な人でも水痘に罹患しますと,急性小脳失調症や脳症などの神経合併症が現れる心配があります。このような重い水痘罹患を防ぐためにも,水痘ワクチンの接種は健康な人でも必要です。
Q5 水痘ワクチン接種後どのくらいの期間注意が必要でしょうか。
A 他の生ワクチンと同様ですが,接種後2〜3週間は,気をつけることが大切です。
Q6 新生児の水痘を予防するには、どうすればよいでしょうか。
A 水痘の免疫を保有しない母親から生まれた新生児は,移行抗体がありませんので,水痘に罹患するおそれがあります。また,たとえ母親が水痘の免疫を保有していても,移行抗体の効力は生後1カ月くらいまでで,生後2カ月以降は水痘に罹患してしまうことがあって,それも重症になりやすいものです。さらに、妊娠している女性が出産直前に水痘に罹患しますと,生まれた新生児は重症の新生児水痘になる危険があります。
このため,女性は妊娠する前にワクチンを受けておくことが必要です。この場合,接種前1カ月間は妊娠していないことを確かめ,接種後約2カ月間は妊娠しないように注意する事が大切です。
Q7 家族の一人が水痘にかかってしまい、未罹患の家族からワクチン接種の希望がありました。接種してもいいでしょうか。
A 水痘は、麻しんと同じ程度の伝染カのある水痘ウイルスに感染することで起きますので,家族の一人が罹患しますと,水痘に対する抗体を保有していない家族は次々と感染してしまいます。家族に水痘患者が出た時点で,接触感染を起こしているものと考えてよいでしょう。接触感染を起こしていれば,潜伏期中になりますので,この潜伏期中の接種は間に合わないことがあることは麻しんと同様です。その後に現れる自然水痘の症状とワクチンによる副反応とを取り違えないように,注意しておくことも大切です。しかし、水痘ワクチンの接種によって,液性免疫に加えて細胞性免疫が強化されますので,自然水痘の患者と接触後3日以内にワクチンの接種を行いますと,自然水痘の発病がワクチンで約80%阻止されることがありますので,場合によっては緊急接種も必要かと思います。家族の罹患に気がついたときは,接触後2日日ぐらいと判断して下さい。
勝島矩子:臨床とウイルス、14 増刊、S80、1986
Q8 帯状疱疹の患者と接触して、水痘に感染する心配はありますか。この場合,ワクチン接種をしておく必要があるでしょうか。
A 帯状疱疹ウイルスは,水痘ウイルスとウイルス学,免疫学,電子顕微鏡学的に同一で,ウイルスDNAも全く同じです。帯状疱疹の患者に接触した場合,水痘を発病することがありますが,帯状疱疹の患者から感染する率は低いと考えられています。
帯状疱疹は,水痘に罹患した後,水痘ウイルスが排除されることなく,神経節に持続感染して,何年も経過した後抵抗力が衰えたとき,帯状に発疹が現れる病気です。帯状疱疹が現れてから本人へのワクチンの接種は意味がありません。抗ウイルス剤の治療を受けて下さい。
飯塚万利子他:小児内科,21,217,1989
Q9 水痘に自然感染したあと、帯状疱疹になることがありますが,ワクチンの接種で帯状疱疹が出ることがあるでしょうか。
A 水痘ワクチン接種と帯状疱疹の関連性につきましては,急性白血病児の場合,自然感染による帯状疱疹発生率は約16%で,これに比べてワクチン接種児は約4%です。また,ワクチン接種後の発疹出現状況で帯状疱疹の発生が異なっているようです。急性白血病児の場合,発疹を生じたときの帯状疱疹発生率約16%は発疹の出ないときの約2%に比べると多いようです。したがって,ワクチン接種を受けた小児の帯状疱疹罹患率は自然感染の場合より低いと考えられております。
Hardy et al,N Engl J Med 325:1545〜1550,1991
高橋理明:ワクチンハンドブック,202〜206,1994
Q10 維持療法を続けている白血病児に対するワクチン接種後の対応について教えてください。
A ワクチン接種後,1〜3カ月及びその後においても水痘に対する抗体を定期的に測定し,抗体の低下が著しい場合には,患者の状態をみて,再接種することがすすめられています。
抗体の測定方法につきましては,免疫吸着赤血球凝集反応,細胞膜抗原蛍光抗体反応,中和抗体法,酵素抗体法及び皮内テストなどが利用出来ます。
Q11 ガンマグロプリン投与とワクチン接種の関係はどうでしょうか。
A ガンマグロプリンには,製品によって水痘ウイルスに対する抗体が高単位に含まれていますので,ガンマグロプリンの投与を受けた人はワクチンの効果が得られないおそれがありますので,少なくとも1カ月以上すぎるまでは接種を延期して下さい。
水痘帯状痕疹免疫グロプリン(ZIG)には,水痘ウイルスに対する抗体が確実に含まれていますので,ガンマグロプリンと同様に対応して下さい(ZIGは,現在わが国では入手できません。)。
Q12 水痘ワクチンの接種対象を教えて下さい
A 水痘既往のない1歳以上で,白血病,悪性腫瘍,ネフローゼ症候群,膠原病,気管支喘息などの患者、医療関係者,健康小児及び成人女性などです。
神谷斉:ワクチン最前線−その使い方−,89〜98、1988
Q13 抗生物質に対し、過去に過敏性を呈したことが明らかな人は接種要注意者になっていますが、水痘ワクチンにはどのような抗生物質が含まれていますか。
A エリスロマイシンとカナマイシンが微量に含まれています。
Q14 水痘ウイルスと発癌性の関係はどうでしょうか。
A 水痘ウイルスはヘルペス群ウイルスに属し,ヘルペス群ウイルスの中にはEBウイルス,単純ヘルペスウイルスのように発ガン性のあるものがあります。しかしながら,水痘ウイルスについては動物実験でも培養細胞でも発ガン性は証明されていません。米国のGelbらも水痘ウイルスの発ガン性を証明することは困難であり,それが近い将来出来ることはないであろうと論文に記しています。いかなるウイルスでも薬品でも100%発ガン性を否定することは厳密な意味では不可能ですが,水痘ワクチンウイルスの発病性は常識的にあり得ません。
Gelb L.D,et alJ.lvest.Dermat.83(supp1.1):77〜81,1984
高橋理明:ワクチン最前線−その使い方−,82〜88,1988
Q15 水痘の皮内抗原について.具体的に教えて下さい。
A 水痘の免疫磯序については,液性免疫と細胞性免疫が有効に作用しています。免疫の測定方法は免疫吸着赤血球凝集反応,細胞膜抗原蛍光抗体反応,中和抗体法,酵素抗体法及び皮内テストなどです。おたずねの皮内抗原は水痘の細胞性免疫機能を測定する目的で開発された診断用抗原で,皮内テストによる24〜48時間の判定結果は液性抗体価とよく相関しています。5mm以上の発赤を陽性とします。
高橋理明:ワクチン最前線−その使いかた−.99〜101,1988