食物アレルギーの治療


食物アレルギーによる過敏症状の予防法として原因食品の除去が最も確実な方法でありますが、患者さんならびにその保護者に、種々の負担をかける治療法でもあります。
食事療法の基本として、原因食品の除去による安全確保だけではなく、栄養障害を起こさないことと食生活のQOL確保も重要であります。そのために原因食品の必要最小限の除去とする配慮が必要です。
1)必要最小限の除去食
@原因食品を正確に同定します。
   除去食品の数を必要最小限にするためには、正確に原因食品を同定することが肝要であります。
A除去食摂取の可否
特異的lgE抗体やプリックテストが陽性でも経口負荷試験が陰性であれば摂取可能です。
Bアウトグローしやすい食品は耐性がついたかどうか定期的にチェックをします。
 ソバ、ピーナッツ、木の実、魚、甲殻類、ゴマなどは耐性が得られにくいです。
 これに対し、鶏卵、牛乳、大豆などは、加齢とともに寛解することが多い食品です。
 これらの食品は、いつまでも除去を続けるのではなく、半年から1年に1回、除去を続行すべきか負荷試験で検討することが望まれます。
 ピーナッツや魚肉アレルギーでも乳児期発症の場合は耐性を獲得することがあります。
C共通アレルゲン性がある食品でもすべて除去の対象とする必要はありません。
 小麦と米は同じイネ科で、両者間にlgE結合能でみると交叉反応性がありますが、小麦アレルギー患者でもほとんどの患者が米を摂取できます。
 豆科、魚類は1種類が摂取不可でも他種は摂取可能な場合があります。
D同系統の食品でも画一的な除去を行ないません。
 同系統の食品でも食品ごとのアレルゲン性のランクを参考にして、除去の程度を決めることによって患者の負担を軽減することができます。
 卵白は加熱によってアレルゲン性が低下するため、生卵を除去する必要のある症例でも、加熱卵なら摂取可能な症例が約半数存在します。
 味噌、醤油のような発酵食品はアレルゲン性が低下しているため、大豆そのものや豆腐が摂取できない患者でも多くの患者が食べることができます。
 納豆も大豆そのものに比べると低アレルゲン化しています。りンゴ、トマトのような果物は加熱や加工によってアレルゲン性が下がり摂取できる場合が多いです。
 例えば生のトマトが摂取できなくてもトマトジュースやケチャップはほとんどの患者が食べることができます。牛肉は牛乳アレルギー患者の約9割は摂取可能です。

2)栄養学的な障害の回避
@かわりに摂取できる食品の栄養指導
 除去食療法は患児の栄養障害をきたす恐れがあります。特に多品目に及ぶ食物アレルギーをもつ患者では注意が必要です。
 除去する品目の指導だけではなく、摂取可能な食品を指導し、栄養の確保に配慮する必要があります。その際、食物アレルギーに精通した栄養士の役割は大きいものです。
A代替食の利用
 食物アレルギーの代替食品には、低アレルゲン化食品、アレルギーを起こしにくい食材を用いたアレルギー物質不使用品とアレルギー物質減量食品があります。
 低アレルゲン化食品には、酵素処理による低分子化したペプチドやアミノ醗を素材とすることによってアレルゲン活性を低減化した食品があります。
 たとえばカゼイン加水分解ミルク(ニューMA-P)、乳清加水分解ミルク(MA-mio、ミーフィーHP)、アミノ酸ミルク(エレメンタルフォーミュラ)などがあります。
 アレルギー物質不使用品としては、アレルギー物質25品目を原材料として用いない食品が市販されています。アレルギー物質減量食品には低アレルゲン化米があります。
B成長・発達の評価
 成長・発達の評価は小児では必須です。体重、身長を経時的に測定し、グラフに記録すると成長の様子が一目瞭然です。母子手帳の成長グラフを利用すると便利です。

3)食品表示のチェック
 表5-11-1に表示義務食品7品目と表示が推奨されている18品目を示す。患者に対して食品表示をみて購入するように指導する。
                               

食物アレルギーの抗原特異的経口免疫療法
 経口的に投与された抗原に対しては寛容が誘導されやすいことが知られており、食物アレルギーに対しても経口的な抗原特異的免疫療法が試みられ始めています。
 除去食療法が消極的治療法であるのに対して、この免疫療法は食物アレルギーの寛解か期待される積極的治療法といえます。経口免疫療法の有効性はほぼ認知されていますが、その安全性や耐性の持続性に関しては課題が残されています。
 

食物除去解除の指標としてのアレルギー検査
 食物負荷試験(以下、負荷試験)の目的は、主に「食物アレルギーの確定診断」と「耐性獲得の診断」の2つです。
 後者で対象となるのは
 1)乳幼死期のアトピー性皮膚炎で検査を受け、陽性を示した食物の除去を開始したが、数年経過していつまで除去を継続すべきかわからない
 2)乳幼児期に初めて食べた食物で皮膚症状が出現し、検査でも陽性を示したものの本当に原因アレルゲンなのか疑わしい
 3)食物除去を継続しても食べられるようにならないため、どの程度まで摂取可能なのか知りたいなどの場合です。
 負荷試験は、病歴とイムノキャップによる特異的lgE検査結果などをもとに適応を判断し、一般に日帰り入院にて実施されています。
 特異的lgE検査結果と負荷試験の結果との間には、抗体価が高くなるほど負荷試験での陽性率が高くなるという関係があり(図)、抗体価が3.5UA/mL以上(クラス3)では半数以上が負荷試験陽性になります。
 したがって、抗体価が3.5UA/mL未満(大まかにはクラス1または2)の場合は負荷試験の対象になる、と覚えておいてもよいかもしれません。
     

《摂取可能な食品の形態と量を確認するための負荷試験》
 過去に重篤な即時症状の既往があっても、成長とともに耐性を獲得する可能性が高いため、定期的に負荷試験を実施し、食物除去解除の評価を行うことが必要です。
 3歳未満では6ヵ月ごと、3歳以上6歳未満では6ヵ月から1年ごとを目安に定期的な検査を行うとよいでしょう。
 食物日誌と合わせ、症状や特異的lgE抗体価、臨床検査値などの推移を観察し、負荷試験の実施、または実施医療機関への紹介を検討します。
 このように、摂取可能な食品の形態と量を定期的に確認することは、患者さんやご家族のQOL向上につながります。
 特異的lgE抗体価は、それだけでは食物除去解除の完全な指標にはなりませんが、負荷試験実施の判断指標として有用です。
 食べられるようになってくると抗体価が低下する傾向があることから、特異的lgE検査結果は臨床医にとって重要な情報の1つになります。
 そのためにも信頼できるアレルギー検査法を継続して使用することが勧められます。
 

(食物除去解除について 愛知医科大学小児科教授 懸裕篤先生)

    個々のアレルギー
小麦アレルギー→小麦アレルギー
ナッツアレルギー
ナッツおよびピーナッツのアレルギーは症状が比較的重篤で、耐性を獲得しにくく、近年その発症率が上昇しているといわれています。→ナッツアレルギー
アナフィラキシー
「重篤で致命的な全身性の過敏反応」および「急速に起り、死に至る可能性がある重篤なアレルギー反応」です。発生率は0.05〜2%と言われています。→アナフィラキシー


イクラ 幼児早期の原因食物として、魚卵(とくにイクラ)の報告が増加しています。幼児の新規発症に限ると4位に入り、注意が必要です。また、魚卵はアナフィラキシーを起こす原因としても報告されており、アレルギー表示では表示推奨食物として報告されています。

検査項目について
  オボムコイド
 オボムコイドは、卵白のコンポーネントの一つで他の卵白成分(オボアルブミンなど)よりも熱や消化酵素に安定です。このため、卵白特異的IgE値が高くても、オボムコイド特異的IgEが定値の場合、その患者はオボムコイド以外の卵白蛋白(オボアルブミンなど)に反応していることが考えられます。
 オボアルブミンなどの蛋白は加熱しや消化に不安定な蛋白のため、こうした患者は加熱卵であれば食べられる可能性があります。
  用語の解説
※耐性の獲得とは  適切な診断と治療(自然経過も含む)で、種々の機序により食物アレルギー症状を呈さなくなること。

食物除去について
※必要最小限の除去を常に考えておいてください。必要最小限の除去とは食べると症状が誘発される食物だけを除去し、原因物質でも症状が誘発されない”食べられる範囲”までは食べることを指します。
これは患者や保護者のQOL向上のために重要です。また、特に成長の著しい小児期に食物除去を行う場合は、定期的に経過観察を行い、特異的IgE抗体価を参考にしながら耐性の獲得を確認することは大切になります。

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